結婚前に離婚後のことも決めておく「夫婦財産契約」
まずはこれまでの振り返りとして、「夫婦財産契約」とは何なのか、確認しておきましょう。
Q.そもそも「夫婦財産契約」とは何ですか?
「夫婦財産契約」は、結婚しようとする夫婦が結婚前に行う契約であり、家事の分担や財産の管理方法、離婚後の財産分与等について定めるものです。
婚姻中に行われる夫婦間の契約は、婚姻中原則として取消可能状態にあります(夫婦間の契約取消権)。夫婦財産契約を婚姻前に適式に取り交わすことによって、夫婦間の財産について取消可能状態になることなく取り決めできます。「婚前契約」や「プレナップ」と呼ばれることもあります。
Q.夫婦財産契約の作成を弁護士に依頼するメリットは何ですか?
資産が多い夫婦の場合、一般的な夫婦と比較して、契約内容が複雑となります。記載漏れなどがあった場合、契約が無効と判断されたり、かえって紛争を泥沼化させるリスク等があります。夫婦財産契約を締結する場合は、豊富な経験とノウハウを持った弁護士に依頼することが望まれます。
また、夫婦財産契約はその有効性の担保と、散逸、隠滅ないし偽造防止の観点から、公正証書化すべきです。
この点、公証人は、裁判官や検察官出身者が就いていることが多く、公平の立場から契約内容を確認します。財産分与について真実公平であっても一見、一方に有利となる内容とも読める場合、公証人から公平性を欠くなどとして公正証書化を拒絶される可能性があります。この時に、弁護士が代理人として交渉することで、お客様の希望を法的に整理し、内容を正しく公証人に伝え、迅速な公正証書化に向けて説得する役割を果たします。
また、夫婦財産契約を締結する際には、結婚するお相手ご本人に納得してもらう必要があります。このとき、感情的な問題もさることながら、権利と義務の観点から基準になるラインがどこかを認識して説明準備の態勢を整えておくことが有用であり、弁護士であれば、そのような観点からサポートが可能です。
Q. 弁護士であれば誰でも夫婦財産契約の作成が可能ですか?
夫婦財産契約において、一般に最重視されることは離婚時の財産分与に関する取り決めです。したがって、もし数年後離婚して財産分与する場合、夫婦財産契約が締結されていなかったらどのような結果となるかを理解することが極めて重要です。
資産の多い夫婦の場合、夫婦それぞれが保有する資産の意義、当該資産の取得方法、市場、評価方法、処分先候補の確保、処分に伴い発生するコスト、今後見込まれる価値変動、アップサイド/ダウンサイド等についての十分な理解を前提にしないと、もし数年後離婚して財産分与する場合の結果を理解することは困難です。
このように、夫婦財産契約では、資産の意義等をよく理解し、資産のある夫婦でトラブルになりやすい事項は何かを予測して予防できる能力をもった弁護士に依頼することが重要と考えます。
また、夫婦財産契約作成の経験がない弁護士に依頼した場合、公証人の指摘に対応しきれず、当初期待した内容での作成が難しくなる可能性があります。
公正証書で夫婦財産契約を締結する場合、公証人により内容の確認を受けることになりますが、真実公平であっても内容が一見して一方的な規定については、厳しく指摘を受けることがあり、希望どおりの内容で作成してもらえないこともあります。公証人は法曹経験者の方がほとんどのため、十分な法的知識を前提として、内容を正しく公証人に伝え、迅速な公正証書化に向けて説得する必要があります。
夫婦財産契約は近年注目されてきているものの、実例が少なく、積極的に分析している弁護士が少ないのが現状です。夫婦財産契約について十分な知識と経験を有する弁護士に依頼されることが重要と考えます。
なお、離婚時の争点として、特に問題となりやすいのは財産分与です。離婚問題が予測される状況の方は、財産分与を見据えて大至急行うべき事前の対策があります(関連記事:『資産家夫婦が離婚「財産分与」のすべて』)。