全国の半分近い世帯がプロパンガスを利用
プロパンガスは、日本全国の約2400万世帯で使われています。日本全体の世帯数は約5900万世帯(2020年現在)なので、全国の半分近い世帯の火力はプロパンガスです。
ガス管が整備されている都心部で生活している人にとっては意外に感じられるかもしれませんが、半世紀にわたって、プロパンガスは日本人にとって主流のガスエネルギーとして使われてきました。
プロパンガスといわれているガスは正式にはLPガス(Liquefied Petroleum Gas=液化石油ガス)。石油ガスを圧縮して液化させたものです。一般家庭用のLPガスの成分は、プロパンガスやブタンガスですが、その80%がプロパンガスなので、日本では「プロパンガス」という名称が一般的になりました。このLPガスには、人体に有害なCO(一酸化炭素)は含まれていません。
液体化しやすく、効率のよい運搬が可能
プロパンガス、メタンガス、石油などは、太古から地球に生息していた動植物が地中に埋没し、膨大な時間をかけて蓄積され分解されたものです。これらのエネルギーは地の底に堆積した化石から生まれているため、〝化石燃料〟といわれています。そんな天然ガスや石油からプロパンガスは生まれます。
通常は気体ですが、圧力をかけたり、冷やしたりすると、比較的簡単に液体になります。一般的なプロパンガスは、1メガパスカル、つまり約10㎏f/㎠ほどの圧力をかけるだけで液体化します。
液体化したプロパンガスは気体のときの250分の1ほどの体積に縮小するため、ボンベの中に効率よく大量のプロパンガスを入れて運ぶことができるのです。備蓄されている状態、つまり、家庭にボンベでストックされている状態のプロパンガスは、寒冷地で強制気化装置を利用するケースもありますが、ほとんどの場合、自然気化させて火力として利用します。
ガス漏れや不完全燃焼を察知させる「臭いづけ」
プロパンガスは、同じ量の空気を1とした場合、約1.5倍の重さがあります。したがって、空気中にプロパンガスを放つと、低いところに滞留します。一方水よりは軽いので、ボンベに入った状態で水に浮きます。
プロパンガスには、本来色はありません。臭いもありません。これについては、意外に思う人も多いかもしれません。というのも、市販されているプロパンガスからは、不快な臭いを感じるからです。
実はあのいやな臭いは、ガス漏れや不完全燃焼がすぐに察知でき、事故を防げるように、あとからわざわざつけたもので、それは都市ガスも同様です。空気の1000分の1の濃度でも人間の臭覚で感知できるくらいの臭いをつけることが、高圧ガス保安法によって定められているのです。
プロパンガスは次の方法で作られます。
●採掘した天然ガスからコンデンセートガス(原油の一種)を取り出す。
●採掘した石油からボイルオフガスの(外部入熱で気化するガスの一種)を取り出す。
などです。現状では、石油から7割ほど、天然ガスから3割ほど作られています。
プロパンガスが需要者の家庭に届くまで
また、プロパンガスが需要者に届くまでのプロセスは次の通りです。
①海外で作られたプロパンガスは、低温にされ、オーシャンタンカー(外航船)で国内輸入基地(1次基地)に運ばれる。
②国内で作られたプロパンガスは生産された基地(1次基地)で低温貯蔵される。
③低温貯蔵されたガスは常温に戻され、コースタルタンカー(内航船)で、日本各地の2次基地に運ばれる。
④ガスは2次基地でタンクローリーに充填される。
⑤全国にさらに多くある充填所(3次基地)に輸送される。
⑥充填所でボンベに小分けされる。
⑦ボンベを各家庭に配達する。
なお、工場をはじめとする需要量の多い大口の顧客にはタンクローリー、あるいはコースタルタンカーで直接運ぶこともある。このプロセスは、基本的に、3種類の業者によって成立しています。プロパンガスを輸入する元売業者、容器に充填する卸売業者、各家庭にガスを販売する小売業者です。
元売り、卸、小売りと進むごとに、業者数は多くなります。また、卸と小売りを兼ねている会社もあります。タンカーで家庭にガスを運ぶケースはさすがにありませんが、タンクローリーで各家庭に直接運ぶ方式の会社も見かけるようになりました。
都市ガスの主原料はメタンガス
一方、都市ガスは天然ガスで、主原料はメタンガスです。メタンガスというと、戦後すぐの工場地帯のよどんだ川底からブクブクと湧いてくる臭いガス、というイメージを持つ人も多いかもしれません。
しかし、あの悪臭はガスではなく硫化水素が発していて、ガスそのものは無臭です。家庭用のガスは、機器が不完全燃焼になると臭いますが、プロパンガスと同様、ガス漏れや不完全燃焼などのトラブルを察知できるように、あえて不快な臭いをつけているのです。
都市ガスの成分はガス会社によって大きな違いはありません。その多くは13Aという規格です(数字は熱量、英語文字は燃焼速度を表す。ちなみにAは速度が遅い)。その内訳は、メタンガス約90%、エタンガス約6%、プロパンガス約3%になっています。日本の都市ガス会社が供給する天然ガスは、液体状になったLNGを輸入したものです。
LNGの輸入基地には「電力会社」が関わっている!?
LNGの輸入のプロセスは、プロパンガスよりも複雑で、購入して日本に運ぶだけではなく、現地での製造から日本が関係しています。
輸入基地についても、日本の複数のエネルギー会社が共同で運用しているケースが主流です。しかも、たとえば、東京ガスと大阪ガスと東京電力というようにガス会社と電力会社が連合しているケースも珍しくありません。いわば呉越同舟です。
このようにLNG基地に電力会社が関わっていることが、都市ガス自由化に際して、電力会社が参入しやすい状況を作っています。電力会社は自由化以前からガスの基地を使用していたわけです。
LNGは、少ないながらも、日本国内でも生産されています。新潟県の東新潟、松崎、南長岡、東柏崎や、秋田県の申川、八幡、千葉県の東金、九十九里、茂原などです。しかし、どこも小規模で、日本の供給量全体の3%ほどにすぎません。
都市ガスは空気より軽く、ガス比重は約0.6。空気中に放つと、上に昇っていきます。液化は難しく、マイナス162度まで冷却しなければなりません。そのため、気体のまま、ガス管によって消費者のもとへ運ばれます。ガス管があるエリアは、都市部を中心に日本の全国土の約5%です。
金属の溶接工場、中華料理店などが使用
都市ガスと比べてプロパンガスのほうがカロリーが高いことはすでに述べましたが、燃焼時の熱量は約2.2倍です。つまり、2倍強の火力があると考えてください。
そのため、都市ガスが整備されているエリアでも、都市ガスの火力では足りない金属の溶接をするような工場や、火葬施設の多くは、プロパンガスを使っているはずです。
もっと身近なところでは、中華料理店、てんぷら専門店、とんかつ専門店、鉄板焼き店、お好み焼き店など火力が強ければ強いほどおいしい料理ができる飲食店では、プロパンガスがよく使われています。
一般の家庭での高温調理への利用は専用設備が必要に
機会があったら、近所のレストランや食堂の裏手、あるいは隣家との間をのぞいてみてください。そこにプロパンガスのボンベがあれば、強い火力で調理をしているはずです。
中華料理店の厨房で、フライパンの上でボワッ!と炎が燃え立つ迫力の場面に遭遇したことのある人は少なくないでしょう。あれは、火力が強いプロパンガスならではの技なのです。電力はもちろん、都市ガスでも、あそこまでの火力にはなりません。
ただし、一般家庭用のガスコンロは、火力が一定の強さ以上にならない仕組みなので、高熱量を必要とする場合は、専用の設備にしなくてはいけません。
余談になりますが、私が子どもの頃は、プロパンガス専用のてんぷらを揚げる装置が自宅にありました。ほかの料理は一般的なガスコンロで、てんぷらは専用の装置で、からっとおいしく揚がった魚介類や野菜を楽しんだことを憶えています。