本記事は、渡邊浩滋氏の著作『「税理士」不要時代」より一部を抜粋し、再編集したものです。

「風俗業」に特化して、高額な月額顧問料を可能に…

20代で独立開業して、風俗業に特化し、現在500件超の顧客を持つ税理士法人松本先生のケースです。

 

事務所の代表である松本先生は、税理士資格を取得してから4年間は一般的な税理士事務所に勤め、その後に開業しました。開業はまだ20代の頃で少し早いと思われる年齢でしたが、それは日本の高齢化が止まらないという課題をずっと感じていたからです。早い段階で他税理士との差別化を行っていかなければ生き残れないと危機感を持っていたようです。 

 

また、松本先生の父親は弁護士事務所を営んでおり、小さい頃から父の背中を見て影響を受けて税理士を志したのですが、父親が「自由業は不自由業」と言っていたのを聞いたことがあるようで、その言葉が早い独立を促したのかもしれません。

 

実際に国家資格に胡座をかいてダラダラ税理士事務所の経営をしている方や、料金体系が明確ではなくお客様を受け入れる態勢が整っていない事務所も見てきた中、自分は志を高く持とうと考えていたようです。

風俗営業を受け入れる税理士事務所は希少

松本先生は独立開業してから30社前後の出版社に本を書かせてくださいという提案書を送りました。なぜ本かといえば、松本先生はもともと「若い人に影響を与えるため教師になりたい」という夢を持っていましたが、教育課程を取っていませんでした。そこで、大学時代の恩師に「教師になるにはどうすればいいか?」と尋ねたところ、「本を書きなさい」とアドバイスを受けており、それを税理士となった後も実行したかったからのようです。

 

しかしその結果、返事はゼロ。松本先生は無名の税理士が出版できるほど現実は甘くはないという現実を知りましたが、粘り強く提案を続けたところ、2007年に小学館から著書『デリヘルはなぜ儲かるのか』(小学館文庫)を出版することができました。

 

なぜそのような内容になったかといえば、たまたまデリバリーヘルスの顧問先があり、監査役を務めていて国税局の調査も受けているためネタはたくさんあったからで、それを出版社の担当者に伝えたところ、面白そうだと感じてもらえたからとのことです。

 

そして、その著書をきっかけに全国の風俗経営者の皆様から相談されるようになりました。そこで松本先生は、実は風俗営業を受け入れてくれる税理士事務所が少ないのだという事実を知ります。そして、それが税務調査で困っている、無申告で税務署がいつ来るか不安な日々を過ごしているという風俗経営者がたくさんいることに気づいたのです。

 

不安な日々を過ごしている風俗経営者がたくさんいることに気づいた。 (画像はイメージです/PIXTA)
不安な日々を過ごしている風俗経営者がたくさんいることに気づいた。
(画像はイメージです/PIXTA)

 

そのときに、松本先生は風俗経営者の適正な税務申告のお手伝いを引き受ける税理士がいなければ、今後も風俗業界で無申告による不安な日々を過ごす風俗経営者が増加してしまうことを危惧しました。また、風俗営業であっても事業として真面目に経営している方もたくさんいらっしゃって、そういった方々が本意としない無申告や脱税で苦しんでしまうのは看過できないと考え、応援していくためにも風俗に特化していこうと思い至りました。

 

実際に、誰かが行動を起こさなければ風俗業界では税の還流が悪いままです。それは業界にとってだけでなく、日本の財政にとってもよいこととは言えません。だからこそ、このような問題を解消し、風俗経営者の方や業界全体によい影響を与える税務サポートを積極的に行う人が必要とされたのです。

書籍の刊行をきっかけに、メディアへの出演依頼が増加

特化したことによる現状の事務所規模や売り上げについて、松本先生は、「やはり出版の影響が大きい」と語っていました。

 

デリヘルに関しての本を出版してから全国から問い合わせが来たと同時に、ラジオやTVにも風俗顧問税理士として出演する機会がありました。それによって知名度を得ることができたので、広告費などはほぼかかっていませんし、リスティング広告などもあまり行う必要がありませんでした。ちなみにリスティング広告とは、検索エンジンを利用したときに検索結果に連動して表示される広告のことです。

 

また、2010年に制作したWebサイトも大きな成果をあげています。「風俗専門税理士事務所」経由で月に15件前後の問い合わせを受け、高確率で顧問契約や税務調査対応に繋げることができているようです。

マイナスイメージの強い業界だからこそ、差別化に成功

通常、風俗業界の顧問税理士を引き受けたとしても、世間一般に向けて声高々と「風俗業の顧問税理士である」と宣言している方はごくわずかです。

 

やはり風俗業といえば、一般的に怖い人が多そう、脱税してそう、無申告が多そう、などのマイナスのイメージがありますし、税務の世界における風俗営業は、国税庁が発表している不正発見割合の高い業種の常連であるため「脱税が多そう」というイメージも強くあります。さらに「暴力団などの反社会勢力との繋がりもありそう」というような悪いイメージが先行する業種の一つでもあります。そのため、一般のお客様からは敬遠されてしまいますし、大手でも参入してこないほどです。

 

しかしだからこそ、その業種で専門特化し、大々的にアピールすることで他税理士との差別化ができ、全国どこの事務所にも負けないノウハウやシステムなどの武器を手に入れることができたのです。

特化することで蓄積した情報が「強み」に

特化していると、業界の多くの実績と情報が集まります。実際に松本先生の事務所では業界的に有名なエリア全てにお客様を抱えているということなので、どこの風俗店に税務調査が入ったかということも把握できますし、何が問題となったかという情報もすぐに入手できます。風俗業は銀行からお金を借りられない業種であり、税務調査の結果次第で資金繰りが大きく動揺します。そのため、税務調査時には的確な対応をすることが税理士に求められます。

 

松本先生の事務所では情報が蓄積しているので、税務調査対応は万全です。これこそが最も強みとなるサービスです。各税務署による判断の〝ブレ〞があっても堂々と指摘することができます。つまり、税務署より上手に立てるということです。税務調査で適切な対応をして顧客を守ることができるので、税理士としての役目を全うできているわけですし、顧客満足度が向上するという好循環が生じます。

 

また、松本先生は顧問先同士のビジネスマッチングも行っているようです。風俗業は業界的にビジネスの情報が入りづらいので、事務所主催のゴルフコンペ等で他業種の顧問先と引き合わせ、ビジネスの拡大をバックアップすることなども行っているようです。

多くの顧客を抱えることで、取引先を選べるように

メリットは業績や顧客数に集約されています。特化したことによって、急成長とは言わないまでも、着実に業績は上がりました。着実とは言いましたが、通常の事務所よりもかなりスピード感のある成長を遂げており、社員の給料も高くできています。例で言えば、33歳男性で月収が70万円を超えるレベルです。

 

さらに、今500件くらいの顧客を抱えています。2016年の契約件数で言えば100件以上にも及びます。それだけの顧客を抱えることができると、付き合いたくない人とは付き合わなくて済む環境になります。たとえば、脱税志向の高い企業などはシャットアウトできるのです。自分たちが働きやすい環境を整えていくことができます。

 

また、2〜3か月に1回の面談で月額顧問料が3万〜5万円台、中には月額顧問料20万円台の顧客もいるほどで、風俗営業の税務対応に自信があるので低価格にする必要がないですし、料金体系もコソコソする必要がありません。むしろ、少しでも料金の透明性を高くして風俗営業を営むお客様を応援したいという気持ちを前面に押し出しています。

 

今は他の税理士事務所でも、風俗業の顧問をやっているところがありますが、松本先生のところほど規模が大きく、システム化しているところはないと思います。風俗専門としては日本一の事務所となった今、今後は美容室や飲食業の顧問先を積極的に獲得することを考えているようです。

 

業種特化によって比較的短期間の間に事務所を拡大することができたことで、さらなる事業規模拡大やサービス展開を視野に入れることができているようです。

本連載は、2016年12月9日刊行の書籍『「税理士」不要時代』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「税理士」不要時代

「税理士」不要時代

渡邊 浩滋

幻冬舎メディアコンサルティング

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