相続税の「納税」時点においてトラブルが発生した事例
本記事では、相続税対策のなかでも特に重要な「納税対策」について考えていきます。
注意しなければいけないのは、節税対策を先に考えてはいけないということです。現在の相続財産に、そもそも、本当に相続税が課税されて納税が必要なのかどうかということも含めて考えていく必要があるでしょう。
相続税が課税されないのであれば、節税対策を考える必要もありません。仮に相続税が課税されるとしても、預貯金で十分支払うことができる金額であれば、いつ相続が起きても大きな問題になることはないでしょう。
しかし、相続税が課税されて、さらにその税額が預貯金では支払えないということであれば納税資金を確保することが最優先事項になります。なぜならば、相続税は原則として、納めなければいけない日までに一括で現金にて納税をすることが決められているからです。
◆本当に相続税が課税されるかどうか調べよう
まず、納税対策を取るためには、本当に相続税が課税されるのか、それとも課税されないのかを調べる必要があります。そして、本当に相続税が課税されるのであれば、どのくらいの金額が課税されるのかを理解すべきでしょう。金額によっては、特例を活用することで課税されないこともあります。それでも課税されるのであれば、納税資金の確保という対策を取る必要があるのです。
なぜ相続税の算出をしなければいけないのかというと、実は相続人全体のほぼ9割は相続税の申告も不要な人たちが多いからです。国税庁の調査によると2018年の被相続人(死亡者数)は、約134万人です。このうち相続税の申告書の提出に係る被相続人は、約11万2千人。相続税を課税されているのは、約8.3%しかいないのです。
そもそも相続税が課税されない人は相続税の納税対策も、そして、節税対策も必要ありません。まずこの事実を知っておくことが大事です。
それでは、財産分け(遺産分割)だけに目が行ってしまい、相続税の納税まで考えていなかったために、遺産分割はうまくいったのに納税で苦労した事例をご紹介しましょう。家族構成および財産構成は次のとおりでした[図表]。
小池次郎さん(仮名/享年80)は生前に遺言書を書いていました。小池さんは遺言書を書く前に、家族全員を集めて思いを語っていたので兄弟全員が納得した遺言書でした。内容は、弟の雄介、まさるにはそれぞれの自宅の土地を相続させ、その他の財産は全て長男のたかしさんに相続させるといった内容です。
法定相続分で考えると不平等のように見えますが、弟たちは自宅を建てるときにそれぞれ1000万円ずつ援助をしてもらっていたこともあり、弟たちも納得した配分でした。
父の相続が発生した後は、この遺言書どおりに名義変更し、全て無事に解決したと思っていたら、相続税の申告をお願いした税理士からこんなことを言われました。
「お父様の相続に際して相続税が約930万円かかります。この税金はお父様の財産を取得した者が、それぞれその財産の取得割合で按分して納税しなくてはいけません」
試算をするとたかしさんが約542万円、次男の雄介さんと三男のまさるさんはそれぞれ約194万円の相続税の納付額となるというのです。たかしさんは預金を相続しているのでその預金で納税することが可能です。
雄介さんとまさるさんは土地しか相続していないので、お父様からの相続財産では支払いができないため、自分の預貯金から自腹で納付しなければなりません。子どもにこれから教育資金などでお金がかかる2人にとっては大変手痛い出費となりました。
遺言書を作るときに相続税の納税のことまで考えていれば、こんな苦労はしなかったのにと嘆いていました。預貯金を納税負担分で分けるとか、生命保険を活用しておくとかいろいろと方法があったのに……。悔やまれる相続でした。
借入れ、法人化…大きく6つに分けられる「納税対策」
原則として現金で一括して支払わなければいけないのが相続税です。納税対策は納税資金の準備が大切です。納税対策は大きく分けて6つあります。
① 相続財産のうち、流動性資産から納税資金を確保する
② 所有不動産の売却で納税資金をつくる
③ 金融機関からの借入れ
④ 生命保険で納税資金をつくる
⑤ 法人化して納税資金をつくる
⑥ 延納や物納をする
最も良いのは、相続財産から納税資金を確保することです。しかし、現金がなければ、所有しているプラスの相続財産のなかから現金をつくることになります。未利用の土地や使いにくい土地などがあれば、売却して納税資金を確保する方法を取ることができます。
しかしながら、所有している不動産が自宅しかないとか、事業や農地などに活用していて、売却して資金を確保することが難しいのであれば、他の方法を選ぶしかありません。金融機関から借入れをする方法もありますが、返済余力がないと生活が困窮してしまいます。