社長が個人的なお金ほしさに株を発行していたケース
《トラブル事例2》
七尾精機を経営する七尾俊行社長は、仕事の付き合いと言って顧客や従業員と飲み歩くのが好きだった。
ところがある時、大判振る舞いをしてしまったため、かなり高額な飲食の請求が後日会社に届いたことがあった。そのことが経理を担当していた妻に発覚して以来、スナック通いや遊びに使うお金が制限されているのが悩みの種だった。
そんな七尾社長はある時「新株を発行して誰かに引き受けてもらったお金を使えばいいのでは?」と思いつく。七尾精機の株式は後継者にする予定の娘婿に10%ほど持たせている他は、自分が全部握っている。発行株式の10%程度なら決議への影響もほとんどないので問題はないはずと考えたのだ。
あちこちに声をかけてみたところ、付き合いのある企業が手を上げてくれた。七尾社長は早速、新株を発行して200万円ほどで引き受けてもらい、スナック通いなどの遊びの資金を手に入れた。もちろん新株を発行したことは妻や家族には秘密だ。
そのうちに七尾社長自身も忘れてしまい、誰にもその事実を告げることなく数年後に亡くなった。取引先にとっては七尾社長が亡くなってしまえば、個人的なお付き合いの意味がなくなるため七尾精機の株式を持っている理由はない。資金繰りに余裕がなくなってきたこともあり、後継社長である娘婿に連絡して、買い取ってほしいと伝えることにした。
こうして、七尾社長の隠しごとが発覚。それまで創業社長として尊敬されていた七尾社長は一転、妻や家族、従業員から「なんと身勝手な人だったのか」とあきれられてしまうこととなった。
勝手に新株を発行するのは「会社法違反」
通常の経営者なら当然ご存知のことと思いますが、新株を発行するための手続きは会社法で細かく定められています。非公開株の場合は株主総会の「特別決議」が必要です。
そのため《トラブル事例2》のようなケースでは新株発行自体が無効とされてしまうこともあります。社長の中にも意外に軽く考えている人が多いのですが、違法な資本政策に基づく株式発行を行うと金融機関などからの信用を失ってしまいます。
信用を損なうと以降の取引に当たってかなりの制約を受けることがあり、経営面で大きなダメージとなります。また、勝手に発行した新株が無効とならなかった場合でも、《トラブル事例2》のように後で買い取りを打診されることも考えられます。相続対策を実行する時には買い戻して回収しておくようにしましょう。