実家を子が相続し「兄弟の共有名義」にする場合が多い
共有名義不動産となるケースで最も多いのは、相続による場合と夫婦が共同購入する場合の2つであり、このいずれについてもトラブルとなる可能性が非常に大きいといえます。本記事では、相続あるいは夫婦による共同購入の結果、不動産を共有することになった共有者がトラブルや大きな問題に巻き込まれた実例を見ていきましょう。
それらの具体的なエピソードを通して、不動産を安易に共有名義にすること、そして共有名義のまま放置しておくことの危険性を深く実感できるはずです。
◆家族や親族の〈住まい〉を相続してトラブルになったケース
相続で共有名義となった不動産に関するトラブル事例をみていきましょう。相続の場合、共有の対象となる不動産として最も一般的なのは被相続人が暮らしていた家や土地です。なかでも、亡くなった親の住んでいた実家を子どもたちが相続し、兄弟の共有名義で登記する例は非常に多くみられます。以下では、そのように家族や親族の住まいを相続して共有名義とした結果、トラブルや問題になった事例を順に紹介していきましょう。
1:共同で相続した空き家の売り値をめぐって揉め事に
Aさんは、父親の死去により、埼玉県にある実家の一軒家を兄と相続しました。しかし、Aさん兄弟はともに都内に家を構えているため、実家には住まない予定です。そこで、Aさんは「空き家にしておくのはもったいないので、売却してお金に換えよう」と兄に対して提案しました。
しかし、兄の方はいずれ賃貸に出したいと考えており、売ることには消極的です。「下手に人に貸すと、後々、賃料の配分をめぐってトラブルになるのではないか……」と案じているため、Aさんは機会があるごとに売却を促していますが、兄の気持ちを覆すことはできずにいます。
このように、共有者の一方は売却したいという意向を持っているのに対して、他方が反対の姿勢を示しているような場合、そのままずるずると共有状態が続くのが一般的です。また、共有者がみな売却に賛成しているものの、売り値をめぐって意見が分かれているようなケースもあります。たとえば、都内の家を相続した人から以下のような相談を受けたことがあります。
「5年前に母が亡くなり、遺産分割を経て私と兄の共有名義となった一軒家があります。某不動産会社に依頼し、販売活動をしていただいておりましたが、価格が高いせいなのか、まったく買い手が付く見込みがありません。兄は安く売りたくないとの一点張りですが、私は多少値段が低くなっても早く売りたいと思っています」
これらのケースも示すように、共有名義の対象が実家である場合には、兄弟姉妹の中に「思い出があるのでできれば残しておきたい」「親が頑張って建てた家なのだから安く買われたくない」という思いを持つ人がおり、共有名義不動産を売却したいと望んでもそう簡単に運ばないことが多いのです。