一見「優良な成長企業」のようだが…FOIの財務諸表
それでは、実際に粉飾決算を行なった会社の財務諸表は、どのようなものになるのでしょうか(特に断わりのない限り、本記事における財務データは当時の有価証券報告書等で開示されていたものです)。
ここでケースとして取り上げるのは、半導体製造装置メーカーのエフオーアイ(以下、FOI)です。FOIは、2009年11月に東証マザーズに上場する際、架空の売上を計上したことにより、上場から半年後の2010年5月に証券取引等監視委員会から強制調査を受けました。その後同社は破産し、社長と専務は金融商品取引法違反で逮捕され、有罪判決を受けています。
ここでは、FOIの財務諸表から「粉飾決算をどう見抜くのか?」「社内では、どのようなことが行なわれていたのか?」を見ていきましょう。
図表2は、2005年3月期から2009年3月期の5期分にわたるFOIの主要な業績データをまとめたものです(FOIの財務データについては、上場に際して提出された、新株式発行並びに株式売出届出目論見書において開示されていたものを使用しています)。
図表2からわかるように、2005年3月期の売上高は31億3900万円であったのに対して、2009年3月期には118億5600万円にまで急増しています。また、同期間における経常利益は8300万円から20億1600万円に、当期純利益(当期純損失)はマイナス200万円から5億3000万円に増加しています。
これらの損益計算書(以下、P/L)上のデータによれば、FOIの売上高および利益は順調に伸びており、業績には問題がないように見受けられます。
キャッシュ・フローに映し出された「苦しい経営実態」
一方、キャッシュ・フローのデータについてはどうでしょうか。事業運営により獲得したキャッシュ・フローを表す「営業活動によるキャッシュ・フロー」(以下、営業CF)は、2008年3月期にマイナス39億9600万円、2009年3月期にはマイナス35億5100万円と、2期連続で赤字になっています。
「投資活動によるキャッシュ・フロー」(以下、投資CF)も2期連続で赤字のため、営業CFと投資CFの合計である「フリー・キャッシュ・フロー」(以下、FCF)も赤字となっています。
その結果、FOIではキャッシュが不足している状況が続いており、その穴埋めを財務活動によるキャッシュ・フロー(以下、財務CF)によって行なっています。本記事では詳細を記載していませんが、連結キャッシュ・フロー計算書によれば、FOIは2008年3月期および2009年3月期に長期借入金や株式の発行などにより資金調達を行なっています。このキャッシュの不足をIPO(株式の新規上場)により解消したいというのが、FOIを上場へと駆り立てた要因の1つだったと言えそうです。
以上の主要な業績データによれば、P/L上のFOIの業績は好調で、優良な成長企業と言えそうですが、キャッシュ・フロー計算書のデータからは、かなり苦しい資金繰りの実態が浮かび上がってきます。このP/L上の業績(損益)とキャッシュ・フローのギャップこそが、粉飾決算を見抜くうえで「何かがおかしい」と感じるべきポイントなのです。
粉飾決算によってP/Lはお化粧されているので、損益の数字をきれいに見せることができていますが、キャッシュ・フローにはFOIの真実の姿が映し出されています。
損益に比べてキャッシュ・フローは粉飾しにくいという特徴があります。そのため、FOIのように粉飾決算を行なっている場合、P/L上の損益から見える企業の姿とキャッシュ・フローから見える企業の姿の間に差が生じてくるのです。この点を見逃さないようにすることが重要です。