「何かあってから」では遅い…介護と実家売却の現実
実家の管理や処分、親の介護、相続はリンクしています。一般の家庭では、親の持つ財産で大きな部分を占めるのが不動産、すなわち実家です。実家の問題については、親に何かあったら考えようと思っている方が多いようですが、果たしてそれで大丈夫でしょうか。
本記事では、親が高齢になり今までのように思うように動けなくなったり、病気を患い倒れたり、また、認知症が進んで判断能力がなくなったときなどにあわてなくて済むよう、実家の売却について説明していきます。
親が介護施設に入所したら介護費用の負担が大きくなった、医療費でまとまった金銭が必要になった、実家が空き家になり管理が難しくなった、もしくは実家の近隣の方が購入を申し出たなど、実家の売却を迫られる家族は多いと思われます。
それでは、実家を売却するにはどういうプロセスを踏むのか順に見ていきます。
<実家売却のプロセス>
①売却の意思決定
②売買価格の査定を依頼
③実家の物件調査、売出し価格の決定
●所有者は誰か、父親か母親か共同名義か(登記事項を調べる)
●公図、地積測量図、建物図面を集める
●境界線は確定しているか
●住宅ローンが残っている場合、残債はいくらか
●道路にはどう接しているか
●給排水や電気、ガスの施設は
●家の中は片づいているか
④不動産業者に売買の媒介を依頼し媒介契約を締結
⑤不動産業者の売却活動をチェックし活動報告を受理
⑥買主との金額交渉
⑦売買契約成立、手付金受領
⑧(必要に応じて)測量、解体、リフォーム、ハウスクリーニング、家財道具の処分
⑨引渡し前の確認(物件状況、付帯物、境界線など)
⑩登記に必要な書類を集める(印鑑証明書、権利証〔登記識別情報〕、住宅ローンの返済と抵当権抹消関連書類)
⑪残代金の決済、登記手続き(抵当権抹消、所有権移転)の依頼
⑫鍵の引渡し、管理規約・付帯設備の取扱説明書等の引渡し
⑬固定資産税、管理費などの精算、諸費用の支払い
⑭取引完了の確認
⑮確定申告
実家の売却にはこのように多くの手続きが必要ですが、施設に入所していたり、病院に入院している高齢者がこれらの手続きを進めることは難しいと思われます。
「意思確認」が厳格化…所有者が要介護だと、売却困難
不動産売却の手続きでは、不動産売買契約の締結時や売主から買主への所有権移転登記申請時において、所有者本人の意思確認が求められます。不動産の売却は買主が決まってから、通常は2回に分けて手続きを行います。まず、売買契約の締結の際に売買代金の一部を手付金として支払います。そして1~2ヵ月後を目処に残金を支払います。
これを「決済」といいますが、売買代金全額の支払いが終わると、司法書士が売主から買主へ不動産の所有権移転登記を申請します。このときも、不動産業者や司法書士は売主と買主の意思を確認するので、契約者の判断能力が必要となるのです。
十数年前までは、所有者本人の意思確認はそれほど重要ではありませんでした。子どもが書類と親の実印を揃えて、親の代わりに契約書に代筆すれば、親が寝たきりでも不動産売買が可能だったのです。しかし、コンプライアンス(法令遵守)の重要性が叫ばれる時代となり、本人の意思確認が厳しく求められるようになりました。
もし、司法書士が判断能力のなくなった所有者の登記申請をすると、懲戒処分を受け業務停止や資格を剥奪されることもあります。
ローン完済前に認知症を発症…売却はどうなる?
ここで、実家を売却する際に親が組んだ住宅ローンが残っていた場合、親が判断能力を失ってもローンは返済できるでしょうか。
総務省の家計調査によると、70歳以上の世帯では持ち家率が93%で負債が約90万円なので、一般的には住宅ローンが残っている可能性は低いですが、すべての人が完済しているわけではありません。
そこで住宅ローンを返済するには、ローンを組んだ本人(債務者という)が金融機関で手続きをする必要があります。債務者が重い認知症で意思が明らかでない場合、ローンの返済のために後見人を要請する金融機関もあるでしょう。そのため、事前に子どもと「任意後見契約」を結んでおけば、子どもが後見人になることでローン返済に支障を来すことはないと思われます。なお、インターネットバンキングにより来店せずに返済できる金融機関もあります。
杉谷 範子
司法書士法人ソレイユ 代表
司法書士
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