契約書は通常、難解な日本語で長々とつづられているため、しっかりと目を通してから捺印・署名をする人はそう多くありません。しかし、世間には契約書を一言一句読まずに成立させた結果、大きな損失を被るケースが頻発していることをご存じでしょうか。筆者の2009年時点の取材内容に基づき、契約の恐ろしさを解説します。※本連載は、烏賀陽弘道氏の著書『敷金・職質・保証人―知らないあなたがはめられる 自衛のための「法律リテラシ―」を備えよ』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

「裁判官は契約書の文面しか見ない」という残酷な事実

こうした裁判官の、産業技術史の時系列すら無視するような思考は大きな問題なのですが、深入りはしません。ここでは、一つの事実を覚えておいてください。

 

裁判官は、あなたのハンコと署名のある契約書を根拠に「あなた、契約書の内容に全部納得して、自分の意思でハンコを押したんでしょう?」と責任をすべて押し付ける発想をする、ということです。そこに至る背景・事情・歴史など「書類の外側」を見ようとしません。前記のTHE BOOMやHEAT WAVE裁判のように、歴史の時系列を無視してさえ責任を押し付けます。

 

契約書を作る側、特に契約作成に慣れた企業は、法務部門のスタッフを持ち、顧問弁護士を抱えています。こうした裁判所の体質を含め、契約を交わすことの意味(義務と義務の免除)、契約を成立させた後の未来予想図まで、すべてを知ったうえで、契約書の文面を用意します。その一字一句に法的な意味が用意されています。「法的な意味」とは「裁判になっても、自分には不利が及ばないような文面」ということです。

 

返す返すも恐ろしいことです。いま、ここであなたに覚えておいてほしいことは「契約を交わすということは、それほどの地雷原に足を踏み入れるということだ」という現実です。いったんハンコをついた契約書があなたを一生拘束するなら、後で泣きを見ないための対策は、契約書にハンコをつくまでにしか取りようがありません。

 

この現実は、ひどく理不尽です。私も納得がいかない。しかし、こうした契約のあり方や、裁判所の態度が一朝一夕に変わると期待するのも現実的ではありません。ですから、私たちは「自分の身を自分で守る」しか選択肢がないのです。そんな現実が、契約書にハンコをつこうとするあなたを待ち構えています。

 

※本記事は、2009年にTHE BOOMやHEAT WAVEの所属する音楽事務所の社長である佐藤剛氏に面談して取材した内容に依拠しています。裁判書類もそのときにいただきました。今回、著書『敷金・職質・保証人―知らないあなたがはめられる 自衛のための「法律リテラシ―」を備えよ』(2018年刊行)の執筆のために改めて佐藤氏に取材をお願いしたのですが『今はまだ、自分の中であの闘いの総括について、答えを出せていません。傷ついた人が多かったこともふくめて、今回はまだ取材に応じられない気持ちなのです』とのことで、叶いませんでした。裁判後、係争になったTHE BOOMやHEAT WAVEの楽曲は、現在はソニーの承認のもと、iTunesストア=AppleMusicで買うことができるようになりました。

 

 

 

烏賀陽 弘道
報道記者・写真家

 

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