新型コロナウイルスの流行により、全世界で医療崩壊が相次いだ昨今、「命の線引き」という言葉も取り沙汰されるようになりました。ジレンマに苦悩する医療従事者も多く、医療現場では「医師のマネジメント」が重要になっています。そこで本記事では、愛知医科大学・内科学講座肝胆膵内科学准教授である角田圭雄氏の書籍『MBA的医療経営』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、解説していきます。

医療費の増大をどう考えるか?

最近、一部の抗癌剤、抗ウイルス剤など高額な薬価が問題になっています。まず、1錠100円の薬剤Aと1錠1万円の薬剤Bを比較してどちらが高額でしょうか? 

 

どちらが高額?(画像はイメージです/PIXTA)
どちらが高額?(画像はイメージです/PIXTA)

 

読者の皆様から1万円に決まってるじゃないかとお叱りをいただくと思います。しかし、
それは両薬剤の効果が同等であるという前提に立っています。薬剤Aには全く効果がなく、薬剤Bが極めて治療効果が高く、患者の予後や生活の質、痛みを改善する作用があるとしたら、どちらが高価といえるでしょうか?

 

それでも薬剤Aのほうが安いといえるでしょうか?

 

次に、1本10万円の高級ワインCと1錠10万円の薬剤Dとではどちらが高価でしょうか(図表1)?

 

[図表1]どちらが高額か?

 

医療費を経済学的観点から考えると、その患者が生存することで得られる便益の増加と医療費のどちらに価値があるかを天秤にかけることになります。逆に医療費が年々増加していることが諸悪の根源のようにマスコミでとり上げられ、国も医療費抑制策に躍起になっていますが、医療費の増加以上に労働生産性が向上しているとすればどうでしょうか?

 

コンピューターやインターネットに関連する費用は年々増加しているのに、そのことを批判しないのはなぜでしょうか? 

 

おそらくコンピューターやインターネットから得ている便益がそれに要する費用を上回るからだと考えます。とすれば、医療費が年間1兆円ずつ増加していても、それ以上の経済的利益を創出できているなら(労働生産性が3兆円増加など)、年1兆円の医療費増加は必要な費用と考えることができます。

 

しかし、人が生きている価値を経済的価値に換算することは困難です。皆様が健康に生きていることで、子供を育てたり、親を介護したり、あるいは他人に幸せを与えたりすることを、経済的価値として数字に換算することができないからです。

 

薬価が高いか低いかという判断は、薬剤がもたらす効果と価格のバランスで判断する必要があります。しかし、実際の臨床現場で、各種の薬剤など医療がもたらす経済的アウトカムを測定することは容易ではありません。そこで、最近では質調整生存年(quality adjusted life years:QALYs)の考え方が導入されています。

医療者も「QALYs」の視点を持つ必要性が高まっている

生存年数と、患者の生活の質(quality of life:QOL)の積を最大化することを目的とします(図表2)。

 

[図表2]医療経済的側面:QALYs

 

 

横軸に生存年数、縦軸にQOLをとり、その積(すなわち面積)を求めます(図表3)。

 

[図表3]QALYsの算出法

 

1QALYsあたりどれくらいの医療費がかかるかといった視点で、種々の薬剤同士の比較や、医療行為、予防活動などについて評価結果を比較できますが、QOLの評価方法をどのように行うかといった課題があります。

 

QALYsは経済評価を行う際に、評価するプログラムの結果の指標として用いられます。単純に生存期間の延長を論じるのではなく、QOLを表す効用値で重みづけしたものです。効用値(utility)は完全な健康を1、死亡を0としたうえで種々の健康状態をその間の値として計測されます。完全な健康の状態で1年生存すれば1QALYsとなります。

 

QALYsを評価指標とすれば、生存期間(量的利益)と生活の質(質的利益)の両方を同時に評価できます。医療経済学の分野では費用対効果を見る際によく用いられる指標であ
り、余命のみでなく、QOLも考慮した点で評価できる指標ですが、効用値の測定の難しさや他集団との比較の困難さなどの問題点も指摘されています。われわれ医療者にもこのような経済的な視点を持つ必要性が高まっています。

 

※本記事は連載『MBA的医療経営』を再構成したものです。

 

 

角田圭雄

愛知医科大学/内科学講座肝胆膵内科学准教授

 

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角田 圭雄

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