人が動かされる「6つの要因」とは?
以上のように交渉心理学を紹介してきたわけですが、ロバート・B・チャルディーニの『影響力の武器』は、人が動かされる要因として次の6つを挙げています。
1.返報性:お返しをしたいという気持ちになること(door in the face)。
2.自己一貫性:自身の中で一貫性を保とうとするため、一度受け入れるとすべてを受け入れてしまう(foot in the door)。
3.社会的証明:他人や社会が正しいと評価されているものを信じる。
4.好意:好意を持っている人の依頼事などに応じてしまいやすい。
5.権威:権威のある者に盲信的に従うので、肩書や資格を利用する。
6.希少性:手に入れにくい貴重品ほど欲しくなること。残り1個や、あと10分のタイムサービスなどで購入意欲を搔き立てる。
誘いを断られたくない…一体どうすればいい?
まずは下記のケースを考えてみて下さい。
食事に行ってくれますか?と聞くと、断られる可能性がありますので、「あなたと食事に行こうと思いますが、中華と和食のどちらがいいですか?」と問題をすり替えます。これを問題のすり替え技法と呼びます。
医師が患者に検査を拒否された場合、この技法を用いることで(ex. 「上部内視鏡は経鼻と経口がありますが、どちらでやりますか?」)、患者はどちらを選べば自分が楽に検査が受けられるかと考えてしまい、検査を受ける受けないという選択肢を忘れます。
感情に訴える…「ストーリーテリング」の重要性
交渉学の授業では1つの課題に対してプレゼンテーションを行い、点数を付けて、良いところや悪いところをフィードバックし合うといったスタイルで授業が進みました。理路整然と話し、理論で人を納得させようと試みるもなかなか良い点数がとれなかった経験があります。ところがプレゼンテーションの中に自身が体験したエピソードや失敗談などのストーリーを交えて話すと、高い点数がもらえたのです。
すなわち交渉成功のカギは論理ではなく、感情なのです。
「理屈は分かったけど、なんとなく嫌だ」という経験は皆様もお持ちだと思います。そこで、交渉には人の心を動かす(感動を与える)という作業が最も重要です。知識や抽象的な言葉の羅列といった一般通達ではなく、ストーリーを語ることが重要です。
ストーリーテリングとは、皆様が伝えたいこと、想い、コンセプトに関連した印象に残る体験談やエピソードを用いることによって、聞き手の興味・関心を引きつけるコミュニケーション手法です。体験談やエピソードは、一般的に聞き手の感情的な反応を引き起こしやすい特性があるため、印象に残るだけでなく、人から人へと伝わりやすくなります。
※本記事は連載『MBA的医療経営』を再構成したものです。
角田圭雄
愛知医科大学/内科学講座肝胆膵内科学准教授
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