脳が疲れ情報を処理しきれなかったとき、ながら行動のとき、気持ちが焦ったときなどに、思いもよらないミスをしてしまうことがあります。ヒューマンエラーを防止するには、活動の流れを追って「要因」を見つけ出すことが重要なのです。※本記事は化学系会社にて5年間ISO規格の品質及び環境マネジメント事務局を担当していた尾﨑裕氏の書籍『ヒューマンエラー防止対策』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。

安全違反やコンプライアンス違反が無くならないワケ

うっかりおこなってしまうヒューマンエラー(本人の意図した結果とは違う行動・結果を招くもの)に対し、リスクテイキング行動は、意図されたもの、行動する本人が思考を重ね、出した結論をその通りに誤りなく実行するものです。つまり、リスクテイキング行動とは、その思考の結果出した答えを間違えることなく行う“ルールからの逸脱行動”なのです。そして「リスクテイキング行動は、ヒューマンエラーと並ぶ事故や労働災害の2大原因の1つだ」と言われています。

 

ヒューマンエラーと並ぶ事故や労働災害の2大原因の1つである「リスクテイキング行動」
ヒューマンエラーと並ぶ事故や労働災害の2大原因の1つである「リスクテイキング行動」(画像はイメージです/PIXTA)

 

人が意図的に行うか否かの観点においては、ヒューマンエラーとリスクテイキング行動とは、全く正反対のものです。しかし、他の者がこれらの行動を見た場合に、当人の行為の中に“自覚があるのかないのか”の見分けはつきにくいものです。

 

従って防止対策を考えるときには、お互いの行動理由や特徴をしっかりと理解し、意識的な行動なのか無意識的な行動なのかを見極めることが必要です。正しく判断することで、それぞれに適した防止対策につなげることができるのです。いわば“分水嶺のどちらに位置しているのかをハッキリと見極める”そのことが防止対策を検討するうえでのポイントになります。

 

今回は、事例とともにリスクテイキング行動への対策について考えます。

事例:ロータリーバルブの清掃中…

あなたは、粉状の製品を製造する工場の交替職場で班長を務めています。今の時間は、夜の11時を少し過ぎた時刻です。

 

今日は夜勤で、午後7時から勤務についています。今、工程では数日前から製造している銘柄の最終品が流れていて、生産計画ではこの夜勤で今の銘柄の生産が終了する計画になっています。従って、明日は一旦工場の操業を止め、次の新しい銘柄を生産できるように、工場内の製品製造ラインのクリーニングを行います。そのため、明日のスケジュールでは、大勢のクリーニング業者が工場に入ることになっています。

 

工程中の製品は最終的に製品ホッパーと呼ばれる巨大な容器に入ります。そこからロータリーバルブという装置を介して、1トンフレコンバックに抜きとる仕組みになっています。今日の操業は、数日前から生産を休みなく続けてきたためか、前段の乾燥工程の調子が少し悪く、製品の水分が製品規格内ではあるものの高めの値を示しています。

 

1トンフレコンバック
1トンフレコンバック

 

明日は朝から工程内クリーニングを一斉に始める計画になっているため、乾燥操作と製品ホッパーからの抜出しを今夜の勤務で終了しておく必要があります。今夜中に製品の抜出しができなければ、操業が終了するまで大勢の業者を待たせることになります。「早く生産を終えないと……」との思いで、あなたは少し焦っていました。

 

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