がん患者の兄への経済的支援が、家計を圧迫したケース
全人的な痛み(トータルペイン)を感じているのは患者だけではありません。家族も同じような痛みを抱えていることがよくあります。家族は患者さんと同様の感情を抱くことから、「第二の患者」と呼ばれることも。「患者本人がツラいのに、私はツラいと思ってはいけない」と、自分の感情を押し殺す人もいます。安絵さん(仮名40歳)も、患者である兄へ何も聞けず、ひとり苦しんでいました。
家計の相談にきた安絵さん。憧れていた図書館司書の資格が取れたので、転職しても暮らしていけそうか確認しにこられました。お給料がかなり下がるので心配になっているようです。
毎月の収支を確認すると、何に使ったかわからない「使途不明金」が5万円もある。そう気づいた筆者は、心当たりがないかたずねてみました。
最初は口を閉ざしていた安絵さん。しばらくして、がんになった兄の治療費を立て替えていること。兄はふたりの子どもの養育費を払っているため、治療費を払う余裕がないこと。「がん」と聞いて驚いて、治療費の立て替えを了承したことを話してくださいました。
でも……。
立て替えだからいつかは返してもらえると思っていたけど、どうも無理な様子。最近では当然のようにお金を受け取りにくるのが気にかかる。
兄のためだからいいと決めたけど、いつまでこの状況が続くのか。知りたいと思いながら聞けずにいるんですよね……と、小さなため息をつきました。
がんにはさまざまな種類があり、症状や進行度、どの治療法を選ぶかなど人によって違います。ですから、いつまで支出が続くかは医療者に直接確認しないとわかりません。ただ、家族だからといって患者の個人情報を教えてもらえるとは限らないのが難点です。
「いつまでどこまで治療費を負担するか決めましょう。出費が続くようなら、安絵さん自身の老後の準備が間に合いません。お金のことを切り出しにくいのなら、診察に付き添ってみたらいかがですか。兄妹のこれからを話すきっかけにもなります。「心配で……」といえばお兄さんも断る理由はないでしょう。家族の同席だから病院も嫌がりません。担当医を介して、病状や今後の治療方針、治療にかかる費用についてもしっかり確認できますよ」
そんな話を、時間をかけてゆっくりじっくりおこないました。
家族思いの人ほど、自分を後回しにしがちです。大切な家族を支えるためにも、あなた自身の生活も大事にしてください。
頻繁な面会を求める遠方の親に、タブレットで対応
奈良在住の貴子さん(仮名42歳)。月に2回、山形にいるひとり暮らしの母のところへ出かけています。父はすでに亡くなり、ひとり暮らしの生活が寂しいようです。春に「がん」になったことも拍車をかけ、しょっちゅう呼び出されるように。ケアマネージャーの話によると、貴子さんの顔を見ると安心できるようです。
「契約社員なので、休みが多いとクビになりそう」
そういっても、「どうせ大した仕事をしてないんでしょ?」と、取りつく島もない状態。「仕事を辞めて、引っ越ししてきたら?」とまでいうようになりました。
貴子さんの希望は、山形にいく回数を減らしたいということ。有給休暇は使い切り、交通費も全額自己負担。介護休暇も取れなくはないが、帰り際に引き留められるのが苦痛だそうです。
そこでオススメしたのがタブレットです。貴子さんの顔を見ると安心できるのであれば、テレビ電話が使えそうです。夕食時や就寝前など介護の時間につないでもらえば、貴子さんがいかなくても話ができます。ケアマネージャーとの打ち合わせも、メールや電話で伝わりにくいことが把握できるようになるかもしれません。
また、航空会社のなかには介護者のための割引運賃サービスを実施している会社もあります。時期にもよりますが、介護目的の移動であれば通常の運賃より35%前後の割引が受けられるため、とても魅力的です。
利用できる人の範囲は「JAL」や「ANA」など会社ごとに違っています。例えば、要介護または要支援認定された方の「二親等以内の親族の方(満12歳以上)」と「配偶者の兄弟姉妹の配偶者」ならびに「子の配偶者の父母」のように取り決めがあります。
現在、貴子さんはタブレットと介護割引を利用することで、月1回だけ山形に帰っています。平日に会社を休まずに済むこと、帰省の費用も軽減できるようになったことから、お母様に優しく接することができるようになってきました。
そもそも介護費用は親自身のお金で賄(まかな)うことが基本。親のためだとあきらめず、交通費の負担をお願いするなど、相談することも大切です。どのような介護を望むかによって、かかる費用や負担に違いがあるのか親自身に気づいてもらう機会にもなります。ひとりで抱え込まないように親子でよく話し合い、無理なく悔いなく介護に取り組みましょう。
辻本 由香
つじもとFP事務所 代表