「生涯おひとりさま」を望むなら、どんな事態に備えるべきか?

約8割もの人が病院で亡くなる時代。誰もが、病名・余命告知や治療方針の希望などを、健康なうちから周囲に意思表示をしておく必要があります。今回は、シニア生活文化研究所・代表理事の小谷みどり氏の著書『ひとり終活』より一部を抜粋し、独居老人だからこそ考えておくべき「人生の幕引き」や、身体が不自由になってしまってもひとり暮らしを継続できる「行政支援」について見ていきます。

蘇生措置を望むか、望まないか…

蘇生措置とは、心停止や呼吸停止に陥った患者を生かすための医療行為のことです。最
近ではAED(自動体外式除細動器)が普及し、街中で突然倒れて心肺が停止しても、一般の人が救命のための蘇生措置をおこなえるようになりました。この場合、蘇生すれば元の生活が送れるのですから、蘇生措置を拒否する理由はありません。

 

人間の脳に酸素が供給されなくなって2分以内に心肺蘇生が開始された場合、救命できる確率は9割程度ありますが、4分では半減し、5分では25%程度になるとされているので、救急車が到着するまでの間に、まわりの人たちが心肺蘇生をおこなうことが救命につながるのです。

 

一方、このように突発的に心肺停止になったのではなく、病気がだんだん悪化して、い
わゆる臨終状態になった患者に、昇圧剤や心臓マッサージ、気管内挿管、人工呼吸器の装
着などの処置が施されることも珍しくありません。しかし昨今、尊厳死の広まりもあり、
蘇生措置を受けたくないと考える人が増えています。

 

厚生労働省が2017年におこなった調査では、末期癌で心臓や呼吸が止まった場合の蘇生
処置(心臓マッサージ、心臓への電気ショック、人工呼吸など)を望む人は11.3%にとど
まり、「望まない」人は69.2%と、7割程度の人は心肺蘇生措置に対して消極的でした。

 

このように、終末期医療において心肺停止状態になったときに蘇生措置をおこなわない
ことをDNR(Do Not Resuscitate)またはDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)といいます。日本救急医学会救命救急法検討委員会は、DNARについて「尊厳死の概念に相通じるもので、癌の末期、老衰、救命の可能性がない患者などで、本人または家族の希望で心肺蘇生法をおこなわないこと」と定義しています。ひとり暮らしの人は特に、蘇生措置を望まない場合には、あらかじめ意思表示しておくことが必要です。

 

蘇生措置を拒否するかどうかという議論は、あくまでも、治癒の見込みがない状態で心肺や呼吸が停止した患者に限定されます。蘇生に成功する確率が極めて低いなかで、蘇生のための処置を試みることを拒否するという考え方です。

 

ところで、日本救急医学会は、救急医療においても、患者本人の意思が明確であれば、延命治療の中止を選択できるとする指針を出しています。具体的には、①人工呼吸器や人工心肺装置などの取り外し、②人工透析などをおこなわない、③人工呼吸器の設定変更や
昇圧剤の投与量変更、④水分や栄養補給の中止、を挙げています。

 

ひとり暮らしの人の場合、延命措置や蘇生措置をどうするか、本人に代わって即座に判断してくれる人がいないことが考えられます。離れて暮らす家族が病院から連絡を受けて駆けつけるまでに、希望しない延命措置を施される可能性もあります。自分はどうしたいのかを考えておき、医師やまわりの人に事前に伝えておくことがきわめて重要です。

一般社団法人シニア生活文化研究所 代表理事

大阪府生まれ。1993年奈良女子大学大学院修了後、2019年まで第一生命経済研究所で研究に従事。専門は死生学、生活設計論。博士(人間科学)。
現在、一般社団法人シニア生活文化研究所代表理事のかたわら、カンボジアで若者の職業訓練を兼ねたベーカリーを主宰している。武蔵野大学客員教授のほか、大学でも講義をおこなう。

最近の主な著書に、『ひとり終活』(小学館新書)、『「ひとり死」時代のお葬式とお墓』(岩波新書)、『没イチ』(新潮社)など。

著者紹介

連載「ひとり終活」不安が消える万全の備え

ひとり終活

ひとり終活

小谷 みどり

小学館

元気なうちは気兼ねの要らない自由な暮らしがいいと思っていても、ひとり暮らしの人は、将来に不安を感じることも多い。 介護が必要になったら誰が面倒を見てくれるのだろう? 万が一のとき誰にも気づいてもらえなかったら…

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