多様な価値観を持った人材を組み合わせることが必要
近年ダイバーシティ経営という言葉がよく聞かれます。ダイバーシティとは人の多様性を意味し、ダイバーシティ経営とは“女性や外国人などを積極的に登用して組織を活性化し、企業価値を高めること”と考えられています。
国も女性の活躍を推進していることは皆様もご存じと思います。管理職における女性比率を上げることや、女性を過剰に優遇することがダイバーシティ経営と考えられています。
しかし、近年の研究によると、ダイバーシティには、2つの種類があるようです。「タスク型の人材多様性」と「デモグラフィー型人材多様性」で、「タスク型の人材多様性」はその組織のメンバーがいかに多様な教育バックグラウンド、多様な職歴、多様な経験を持っているかといった、実際の実務を行うための能力や経験を意味し、「デモグラフィー型人材多様性」とは、目に見える属性のことで、国籍、性別などに当たります。この2種類の多様性が組織のパフォーマンスに異なる影響を与えることが明らかになってきています。
多くの論文のメタ分析によると「タスク型の人材多様性」は組織パフォーマンスにポジティブな影響を及ぼすが、「デモグラフィー型人材多様性」は組織パフォーマンスには影響を与えず、むしろマイナスの影響を及ぼすとの報告があります(入山 章栄著『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』日経BP社)
したがって女性や外国人を一定の割合で登用することが、組織にとってただちに良い成果をもたらすものではないことを認識しておくべきです。
ある製薬会社のMRから、実力もないのに女性だからといって管理職に就くことでむしろ男性社員の士気を低下させているといった現状を聞いたことがあります。ダイバーシティ経営とは、さまざまな知識、価値観などの多様性をどう取り入れて組織全体で結果を残すかという、チームビルディングの一手法なのではないかと考えています。
また女性に活躍の場を与えるには女性の労働環境を改善することも重要ですが、毎晩夜遅くまで残業している男性社員の働き方改革の方がむしろ重要なのではないでしょうか?
男性が定時に帰宅して子育てや家事を行えば、女性の労働時間を確保できます。女性活躍の社会実現には男性労働者の労働環境を整え、ワークライフバランスを向上させることも重要だと考えます。
実は日本で最初のダイバーシティマネジメントを行ったのが、織田信長です。大工や、商人、そして農民出身の秀吉など、多様な人材を身分や家柄ではなく、実力で採用したわけです。信長は城下を歩きながら、人材を発掘したと言われています。織田信長を見習った人材の発掘が病院経営にも求められます。ぜひ病院管理者の立場の先生方は院内を歩き回って人材の発掘を行って下さい。
組織の外ではなく内に優れた人材が潜んでいます。以上のように、ダイバーシティは性別や人種のみではなく、仕事に関する価値観、人生に関する価値観、家族に関する価値観の多様性を互いに認め合うことを意味します。これまでの医局制度は、同じ知識、同じ能力、同じ価値観を持った人間を大量に養成すること(金太郎あめ型人材育成と個人的に呼んでいます)に主眼を置いてきましたが、これからはグローバル視点を持ち、変化する外部環境に柔軟に対応できるダイバーシティマネジメント(絵具型人材育成と私は呼んでいます)への変換が必要です。
世界最古の木造建築である法隆寺の宮大工棟梁の西岡常一氏(1908-1995)は千数百年もの間いかに木造建築を維持してきたかといった問いに、個性の強い木を組み合わせて建造しているからだと答えています。素直な木は弱い、右を向く木、左を向く木もうまく組み合わせていかなければならないと言っており(西岡 常一、小川 三夫、塩野 米松著『木のいのち木のこころ―天・地・人』新潮社)、まさに絵具型人材育成が組織を強くするのです。
したがって病院経営においても多様な価値観を持った人材を組み合わせることが必要です。
現在の病院組織は診療科あるいは臓器別の縦割りですが、今後の病院組織の運営には横ぐしも必要です。(沼上 幹著『組織デザイン』日本経済新聞社)。組織デザインの権威である一橋大学の沼上幹教授はマトリクス構造を勧めています。