傷病手当金、障害年金…公的制度でお金を貰う
■長期療養に使える制度(傷病手当金)
会社を休職して治療に専念することも、仕事を辞めないための選択肢のひとつです。ただ、「ノーワーク・ノーペイ」の原則で、仕事をしなければお給料はもらえません。そこで頼りになるのが、公的医療保険による保障制度です。がんになっても安心して暮らせるために、自分が使える制度が何か理解することが大切です。
会社員が業務外の病気やケガで会社を休み、事業主から給料がもらえなくなったり、減給されたりしたときに、加入している健康保険からお金が支給される制度が「傷病手当金」です。最長1年6ヵ月にわたって支給されるため、長期療養に備えられる安心感があります。
傷病手当金の受給のためには4つの条件を満たすことが必要です。
●業務外の病気やケガで治療中であること
●病気やケガで仕事ができない状態であること
●連続する3日間を含む4日以上仕事を休んでいること
●休んでいる期間中に給与の支払いがないこと
健康保険に加入していることが前提ですが、おおよそお給料の3分の2程度の手当を受け取れます。ただし、「傷病手当金」は公務員の「共済組合」や「協会けんぽ」、大手企業などの「健康保険組合」加入者が使える制度。残念ながら、国民健康保険の加入者は使うことができない制度です。
ここで、架空の雅彦さんという人物の例を挙げてみます。
上記の雅彦さんは「健康保険組合」の保険に加入しているので、申請が通れば傷病手当金を受給できるとわかりました。雅彦さんのお給料をもとにざっくり計算すると、給料の3分の2は約62万円。医療費の自己負担分を支払っても、生活費に支障がない金額です。
そこで、さっそく会社の総務部に問い合わせると、「先に有給休暇を使い切ってからにして!」といわれました。退院後の通院を考えると有給休暇を残して傷病手当金を受給したい。ですが、傷病手当金を申請するには、「傷病手当金支給申請書」に医師と会社の事業主の証明が必要です。普段強気な雅彦さんですが、今回はおとなしく会社の意向に合わせることにしました。
傷病手当金は非課税所得ですので、所得税や住民税の課税対象とはなりません。ただし、昨年の年収に応じた住民税は支払う義務があります。また、傷病手当金の受給額は給料の約3分の2になりますが、年金保険料と健康保険料は3分の2ではなく、満額でお給料をもらっていたときと同額です。
そう考えると、実際の手取り額はかなり減少してしまいます。また、傷病手当金はお給料のように毎月決まった日に支払われるわけではありません。申請ベースで支払われるため、自分で提出する場合は毎月定期的に、会社が代わりに提出するなら2ヵ月に1回など、どのタイミングで請求するかを聞いておくと、治療費の支払いや家計管理に役立ちます。
■働けるともらえないは噓? 傷病手当金の受給条件
傷病手当金は病気で働けなくなった人のためにある制度だから、休職中に一度でも会社で働くと以降の受給はストップするという誤解があるようです。
例えば、雅彦さんが休職中に打ち合わせのため1日だけ出社したとします。出社日は給料が支払われるため傷病手当金は受給できませんが、その翌日から休職したとしても最長1年6ヵ月が経過するまでは支給がおこなわれます。
また、傷病手当金は会社を辞めたら受給できないと勘違いしている人も見受けられます。
●退職するまでに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上ある
●退職日に、すでに傷病手当金を受けているか、受けられる状態にある
このふたつの条件を満たせば、退職後も引き続き手当をもらい続けることができます。ここで注意したいのが、退職日に会社に出社しても給料をもらわないこと。出勤日としないことです。これは、「退職日に、すでに傷病手当金を受けているか、受けられる状態にある」という要件から外れる行為。そうなると、その日以降、傷病手当金を受給できなくなります。退職日の過ごし方が、とっても大切ですね。
■長期療養に使える制度(障害年金)
傷病手当金は病気やケガが治ったかどうかは関係なく、1年6ヵ月で支給停止になります。そのあと仕事に復帰できればよいのですが、治療が続き思うように働けないこともあるでしょう。そんなとき頼りになるのが「障害年金」です。
「障害年金」は、障害をもつ状態になったときに生活を支えてくれる年金です。障害者手帳をもっている人だけが受給できると勘違いしがちですが、障害者手帳を取得していてもいなくても、要件を満たせば受給できます。要は、「障害によってどれだけ生活や仕事に支障があるか」が判断基準となります。
また、抗がん剤など治療や副作用の影響で、貧血やしびれなどの支障が出ている場合も障害年金を受給できる可能性があります。
障害年金を受給するための要件は、
①障害の原因となった病気やケガの初診日に国民年金または厚生年金に加入しているなど、初診日要件を満たしていること
②障害の状態が、障害認定日に、障害等級表の1〜3級(国民年金の場合は、1級又は2級)に該当(がいとう)していること
③保険料の納付要件を満たしていること
「自分の場合はどうだろう?」そう思ったら、担当医や病院内の相談室、または「がん」のことを理解している社会保険労務士に相談することをオススメします。
障害認定日は、病気やケガのために初めて病院を受診した日(初診日)から1年6ヵ月たった日、または「治癒(ちゆ)(症状固定)となった日」のいずれか早いほうの日です。
例外として人工肛門の造設を施術した日から起算して6ヵ月を経過した日や、咽頭全摘出(いんとうぜんてきしゅつ)では全摘出した日など、初診日から1年6ヵ月以内でも障害が認定されることがあります。歌手のつんく♂さんは咽頭全摘手術をされたそうなので、元気にお仕事されていても、申請すれば障害年金を受給できるのではないかと推測されます。
このとき、初診日に国民年金に加入していた方には障害基礎年金が、厚生年金に加入していた方には障害厚生年金が支給されます。障害厚生年金を受けられる人が2級以上に該当すると、国民年金の障害基礎年金も上乗せされるので受給額が増えます。
また、障害基礎年金は障害の程度が重いほうから1級、2級の2等級からなり、障害厚生年金は、1級、2級、3級の3等級が設定されています。3級に達していない場合でも軽い障害が残ったときに「障害手当金」が支給されることも。
私にがんが見つかったのは退職後。国民年金に加入していたときです。将来もし障害年金の申請をするなら、障害基礎年金。退職前にがんが見つかっていたなら手厚い障害厚生年金の申請ができました。こんなことなら、在職中に検査を受けておくんだった……と後悔した理由は、使える制度の違いをよく理解していたからです。
退職前と退職後。この差は実に大きい。気になる症状があってもなくても、検査を受けるのは退職前と覚えておきましょう。
辻本 由香
つじもとFP事務所 代表