●米経済対策第4弾を巡る財政協議が難航、既存の経済対策の失効懸念もあり、株安の一因に。
●州・地方政府への支援などで与野党の見解が相違し、追加経済対策の成立は大統領選挙後か。
●成立が多少遅れても経済への影響は軽微、ただ不成立なら市場が動揺する恐れもあり、要注意。
米経済対策第4弾を巡る財政協議が難航、既存の経済対策の失効懸念もあり、株安の一因に
米国では、経済対策第4弾を巡る与野党の財政協議が難航しており、同対策の早期実現が見通しにくくなっています。このところ、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長やクラリダ副議長など、多くの米金融当局者が、財政政策による経済支援の重要性を指摘していることから(図表1)、市場では財政協議の難航を不安視する向きも増えつつあり、足元の米株安の一因となっています。
トランプ米政権は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、第1弾から第3.5弾(第3弾の拡充という位置づけ)まで、総額約3兆ドルの経済対策を打ち出しています。ただ、それぞれの対策には期限が設けられているため、期限までに経済活動が十分な水準まで回復していない場合、経済対策の失効で景気に下押し圧力が生じる、いわゆる「財政の崖」が発生する恐れがあります(図表2)。
州・地方政府への支援などで与野党の見解が相違し、追加経済対策の成立は大統領選挙後か
経済対策第4弾について、当初、共和党は1兆ドル規模、民主党は3兆ドル規模を主張していました。協議が長引くなか、民主党は歳出額を2兆ドル規模に減額し、共和党の妥協を促しましたが、共和党がこれに応じず、歳出額を5,000億ドル規模に半減したことで、与野党の合意はさらに遠のきました。現在、ホワイトハウスは、1.3兆ドル規模の折衷案を示していますが、与野党協議に進展はみられません。
なお、与野党が対立する理由は、経済対策の規模そのものではなく、民主党が州・地方政府への資金支援や家計への現金給付第2弾などを求めているのに対し、共和党が慎重な姿勢を示していることにあります。また、米議会は、下院が10月5日から11月13日まで、上院は10月12日から11月6日まで、休会の予定となっており、経済対策第4弾が成立するのは、米大統領選挙後となる可能性が高まっています。
成立が多少遅れても経済への影響は軽微、ただ不成立なら市場が動揺する恐れもあり、要注意
経済対策第4弾の成立が遅れ、既存の経済対策の失効が続けば、景気の回復力が鈍ることも想定されます。しかしながら、米国の家計の貯蓄率は依然として20%近い水準にあるため、当面は貯蓄の取り崩しで消費をまかなうことができます。したがって、成立の時期が来年初めにずれ込んだとしても、マクロ経済への影響は限定される公算が大きいと考えています。
2021年の米実質GDP成長率について、弊社は前年比+4.1%を予想していますが、経済対策第4弾が不成立なら、この予想値は1%ポイント程度、押し下げられるとみています。なお、米議会予算局(CBO)は、2020会計年度(2019年10月~2020年9月)の累積赤字が約3.3兆ドルの過去最大に達すると見込んでいます。財政赤字が膨らんだまま成長ペースが鈍化すれば、金融市場に動揺が広がりかねないため、今後の財政協議は要注意です。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米財政協議の難航と経済対策第4弾の行方』を参照)。
(2020年9月25日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
シニアストラテジスト