法定資料の提出は強制だが、法定外資料の提出は任意
税務署は調査先を選ぶための情報として、納税者に関する様々な資料を収集しています。税務署によって調査先の選定などを目的に収集されている資料は、大きく「法定資料(法定調書)」と「法定外資料」とに分けることができます。
この両者の違いをしっかりと把握しておくことは、税務調査対策を進めるうえで大きなポイントとなります。
というのは、「法定資料」は提出が強制されるのに対して、「法定外資料」は提出が任意だからです。つまり、前者の資料は税務署から提出を命じられた場合、それに従わなければ罰則を科されることになりますが、後者の資料については命令に従わないからといって罰を受けることはありません。「法定外資料」については、出すも出さないも納税者の自由な意思に委ねられているのです。
後ほど触れるように、税務調査対策においては、出す必要のない資料は可能な限り出さないことが重要になります。そのためにも、「法定資料」と「法定外資料」の違いをしっかりと意識しておくことが求められるわけです。
税務調査で重要資料となる「一般取引資料せん」とは?
主な法定資料の例としては、以下のようなものがあげられます。
●給与所得の源泉徴収票
●退職所得の源泉徴収票
●報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
●不動産の使用料等の支払調書
●不動産等の譲受けの対価の支払調書
●上場証券投資信託等の償還金等の支払調書
●特定新株予約権等・特定外国新株予約権の付与に関する調書
●国外送金等調書
●国外財産調書
一方、法定外資料については、法定資料以外のものが全てその中に含まれることになりますが、税務調査対策の観点からは、特に「一般取引資料せん」への注意が必要となるでしょう。
一般取引資料せんとは、所定の期間に支払った交際費や外注費の金額など取引相手に関わる情報を含んだ資料のことです。申告書には表れない企業の取引に関するデータがありのままに記載されているため、税務調査に必要となる情報を入手する手段として税務当局では非常に重要視されています。
「一般取引資料せん」は出す必要がない資料
一般取引資料せんは税務調査の重要資料であることから、税務当局はその入手に強い意欲をもっています。たとえば、国税庁のホームページでは、その提出を以下のように納税者に積極的に促しています。
「税務署では、適正・公平な課税の実現のため、法人及び個人の事業者の方々に「売上、仕入、費用及びリベート等」に関する資料の提出をお願いしております。資料の提出は、FD・MO・CD―R・DVD―Rによりデータで提出することもできます。提出用のデータの作成・保存に便利な入力フォームを当ホームページからダウンロードできますので、是非ご利用ください」
このような税務署側からの強い訴えかけを読むと、「提出するのが納税者の義務なのではないか」と思うかもしれませんが、前述のように、一般取引資料せんは法定資料ではありませんので提出する必要は全くありません。
出す必要がない資料は出さない――これは税務調査対策の鉄則といえます。法定外資料は出さないからといって何の不利益も受けません。逆に、出したことによって、すなわち税務署が法定外資料を入手したことがきっかけとなって、予期せぬ不利益を受けたり、面倒な事態に巻き込まれることになるかもしれないのです。
たとえば、税務署に言われるがままに、取引先のA社から購入した商品の代金を記載した一般取引資料せんを提出したとします。しかし、A社の側ではそれに対応する売上の記録が存在していなかった――ということになれば、税務署側に架空の支払計上を疑われることになるかもしれません。
このように痛くもない腹を探られる危険を避けるためにも、税務署に必要以上に自社の情報を与えないことが賢明といえるのです。
資料のコピー代は税務署に請求できる
なお、税務調査の際には、調査官から関係資料のコピーを求められることもあるでしょう。コピーを取るのは納税者の義務というわけではないので、基本的に調査官の求めに応じる必要はありません。ただ、無下に拒むのもためらわれる、その程度のことは応じてもいいと思うのであれば、せめてコピー代は請求するようにしましょう。
コピーの量が多いとそのためにかかる費用も馬鹿になりません。ケースによっては数万円の額になることもあります。あまり知られていませんが、税務署に請求書を送り自社の銀行口座を伝えれば、コピー代は後日きちんと振り込まれてきます。実際、筆者も顧問会社のために何度かコピー代の請求をしたことがあります。
それから、コピーを求められた資料については、自社用にもう一部コピーを取っておくとよいでしょう。税務署側にどのような情報を押さえられているのかを、正確に把握しておくためです。
また、税務署側からは、後日、コピーされた情報に関して疑問点などについて問い合わせがあるかもしれません。そのときに、スムーズに応じるためにも、自社用のコピーが必要となります。
小川 正人
ステップアップ税理士法人 代表社員
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