「親離れ」後に迫りくる「熟年離婚」
幼いころは「パパと結婚する!」と言っていた娘が、思春期になった途端に「キモイ」や「臭い」と言って近づかなくなってしまった……という、世の父親の嘆きの声をよく耳にします。これは女性特有のホルモン「エストロゲン」が関係しています。
思春期の女の子は、エストロゲンの分泌が活発になり、異質なものに対する拒否反応を起こすのです。好き嫌いがはっきりしてくる時期といえます。
女の子だけでなく、男の子にも思春期になるとたくさんの変化が現れます。今まで「ママ」や「パパ」と言っていたはずなのに、ある日突然「おふくろ」や「親父」と呼ぶようになる。声変わりが起きたり、ヒゲが生えたり、急に背が伸びる。これらは、男性ホルモンの「テストステロン」が影響しています。
この「エストロゲン」と「テストステロン」が思春期に急上昇することで、子どもたちは精神的に親から離れていこうとします。子どもの反抗期も、まさにホルモンが関係しているのです。
こうして「親離れ」が始まると、父親と母親はまた二人きりになります。そのとき、険悪なムードだったら「熟年離婚」なんてことになりかねません。だからこそ、今からしっかりとお互いを見つめ合ってほしいのです。
男性にも産後うつ「パタニティブルー」
しかし、気をつけていただきたいことが一つあります。それは「一人ですべての責任を背負おうとしない」ということ。
ここまで女性が抱えるストレスにばかり言及してきましたが、実は男性にも産後うつがあります。子どもが生まれることで精神的に不安定になってしまうことを総称して「パタニティブルー」と呼びます。
パタニティブルーとは、児童精神医学を研究しているエール大学のカイル・プルーエット教授が1987年に発表した論文のなかで語られた症状です。兵庫医療大学が2012〜2015年にかけて調査した研究データによると、約2000組の夫婦のうち13.6%の父親がうつ状態であると診断されました。
そのほか、国立成育医療研究センターが父親215人を対象とした調査によると、妻の産後3カ月の間に、1回以上うつの傾向を示した夫は16.7%もいたことが分かっています。
女性が産後うつになるのは約10〜15%といわれているので、ほぼ同じ割合で男性も産後うつに陥るのです。女性の場合は産後のホルモンバランスの変化が大きな要因でしたが、男性の場合は育児の不安や責任感からくるプレッシャーが背景にあり、妻の出産前から子どもが生後6カ月になるくらいまで続く人もいます。
このほかに、頭痛や胃痛、肩こりなど身体的な症状が見られることもあります。産後のホルモンバランスの変化が起きない男性まで、このような状況に陥ってしまうのはなぜなのか。その要因は大きく分けると三つあります。
1. 心理的要因
2. 生活リズムの大幅な変化
3. パートナーである妻との関係性
1の心理的要因とは、主に責任感やプレッシャーからくるストレスです。女性が母親になって不安を抱えるのと同様に、男性も父親になるのは初めてのことです。不安と緊張でいっぱいの日々が続くなか、父親としてしっかりしなければいけないという重圧がのしかかり、「自分にちゃんと子育てができるのだろうか」「子どもを育てるだけのお金が稼げるだろうか」といった将来への不安が心のなかで渦巻きます。
パタニティブルーになりやすい人には「責任感がある」「真面目」「頑張り過ぎる」「完璧主義」といった性質を持つ傾向があります。「仕事も家庭も完璧にしたい」そう思うがゆえにストレスがかかり、バランスを崩してしまうのです。
東野 純彦
東野産婦人科院長