老後に悲惨な思いをしないためにも、住宅購入時点での長期的な計画を怠ってはなりません。本記事では、「地域密着」型不動産仲介業を展開している株式会社小出不動産の徳島雅治氏が、住宅購入の悲惨な例を解説します。*本記事は、徳島雅治氏の著作『小さな不動産会社の一人勝ち戦略』より一部を抜粋、再編集したものです。

年収800万円で家を買えばいずれ資金がショートする

《ケース1》

先日、お子さんを産んだばかりの奥さんが会社を訪れ、私が対応しました。話を聞くと、子供も産まれ、夫も安定した仕事についているからそろそろ家を購入しようかということになり、何軒かのお店を回って最後にうちに来られたそうです。

 

 

ところが、私はその場で即、「もう何年かしてから購入されたほうが良いと思いますよ」とアドバイスしました。会社の若手社員は、その話を聞いて「買おうと思っているのなら、売ればよかったのでは」という意見を言っていたのですが、それではまだ目先だけしか見ていません。

 

実は夫の年収は800万円ほどで、自己資金は200万円用意しているとのことでした。ほかの不動産屋では自己資金がなくても買えると言われたそうですが、現在の資金状況では、いずれショートしてしまうのは明らかです。

 

これでもし親の資金援助があれば別ですが、どうもそうではない様子でした。安定した企業とはいえ何が起きるかもわかりませんし、もう数年貯蓄すれば、十分に頭金となる資金が貯まります。また勤続年数が長くなるほど年収が上がる可能性があり、銀行の返済に関する信頼度が高まるので融資をしてもらいやすくなります。

 

もしこれで目先を変えて自己資金に見合った中古のマンションを購入したとしても、マンションの費用だけでなく仲介手数料や取得税、その他諸経費がいろいろとかかります。しかも中古だけに、そのマンションを売っても、現在より高く売れる見込みはありません。

 

資金繰りが苦しくなって売ろうとしても、劣化しているため安く買い叩かれ、結局赤字が残るだけです。まだ夫も20代半ばということでとても若い夫婦でしたから、焦って今飛びつくより、数年待って自己資金も貯まり、余裕ができてからあらためて自宅を購入することを検討しても遅くはありません。このような理由から、私はあえて購入を勧めませんでした。奥さんも納得してくれたようです。

手元にはほとんどお金は残らず、しかも住まいも失くす

《ケース2》

次に少し不幸なパターンをご紹介しましょう。その女性は80歳を過ぎており、旦那さんも亡くなられ、鉄骨4階建ての家の3階に一人で住んでいました。4階部分は息子さん家族が住めるように準備をしていたそうです。また1階と2階は4室分の賃貸住宅となっていて、その収入が生活の糧となっていました。

 

旦那さんが亡くなったのはもう10年前のことで、不運だったのはその時点で遺産分割をしていなかったことです。というのも、女性は再婚で、息子と娘は前妻の子供だったのです。後妻である母親と子供の心の距離は遠く、互いに財産分与のことについては言い出しかねたまま10年が過ぎていました。ようやく息子たちが相続について弁護士に相談したところ、不動産の財産分与は10年で時効になってしまうので、その前のタイミングで遂に遺産分割の話を持ちかけることになったのです。

 

この賃貸物件は私たちが扱っていた関係もあり、息子たちの弁護士との交渉を私たちが担当することになりました。しかし弁護士側はなかなか譲歩せず、むしろ強く迫ってきました。最終的に不動産を分割し、賃貸収入については10年前までさかのぼって算出し、半分を子供たち側に返金する必要が出てきました。

 

しかし生活費として家賃収入を全額使ってしまっていたので、現金はなく資産を売却するしかなかったのですが、鉄骨4階建ての建物は解体するだけでもかなりの金額がかかります。築40年ものだったので、売ろうと思っても買い手はつきません。選択肢は分割した財産を現金化するしか残されていませんでした。しかもその資産は夫から相続したものとなるので、税金が30%かかります。手元にはほとんどお金は残らず、しかも住まいも失ってしまいました。家賃収入もありません。場合によっては生活保護の必要も出てきます。

 

お金も住まいも失った
お金も住まいも失った

 

これまでうちで扱っていた物件で10年間管理料をいただいてきましたから、今度は私たちの側でその女性のアフターフォローをしなければならないと考えています。現在、その方にとって最適な方法はないものか検討中で、まだ明確な答えは出ていません。

 

非常に世知辛く厳しいことですが、現実問題として、ほかでも同様なことが起きている可能性は十分に考えられます。今回、たまたま私たちが関わっていたから発覚しましたが、女性ももう高齢でしたから、一人だったらきっと誰にどう頼んだらよいのかわからなかったでしょう。

 

小さな不動産会社の一人勝ち戦略

小さな不動産会社の一人勝ち戦略

徳島 雅治

幻冬舎メディアコンサルティング

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