「ウルトラ高齢化社会」の現実がすぐそこに⁉
方々で使いつくされ、聞き飽きた感もある「人生100年時代」というキャッチフレーズが表す通り、 我が国が未曾有の少子高齢化社会に突入しているのはご存じの通りである。その老後資金の運用についても、さまざまな論議を目にすることも多いだろう。
現在、総人口1億2622万人のうち、65歳以上が3567万5千人で、総人口におけるその割合は約28.2%となっている(令和元年7月現在)。わずか15年前の平成6(1994)年の割合が14%であったことを鑑みれば、単純に倍増という計算となる。
当然この流れは抗いようもなく、総人口が減少する中で65歳以上の者が増加することにより高齢化率は上昇を続け、令和17(2036)年に33.3%で3人に1人となる。令和23(2042)年以降は65歳以上人口が減少に転じても高齢化率は上昇を続け、令和46(2065)年には38.4%に達し、国民の約2.6人に1人が65歳以上の者となる社会が到来すると推計されている(「平成30年版高齢社会白書」内閣府)。
つまり現在働き盛りの30、40代の人々が迎えるのは、「ウルトラ高齢化社会」ともいえる老人だらけの時代である。その世代が定年を迎えるころには、年金の支給額はさらに絞られることは明白で、現在約75%といわれる「退職金制度」を採用している企業もそれらを維持することができるのかも怪しい状況だ。
希望すれば就労期間を延長できるといわれているが、原則、定年を60歳とする企業が79.3%(平成29年厚生労働省)という現状だ。例えば住宅取得世帯の半数以上が30年以上のローンを組んでいるが、計画的に繰り上げ返済をしない限り、在職中に支払いを終えるのは至難のワザだろう。
その他にも、現行の高齢者の無職の世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の2人世帯)で1ヵ月に必要とされる生活費は26万7546円。このうち年金が19万3051円で、その他の収入が1万9784円(「家計調査報告」2016年総務省)。5万と少しが不足しているが、その分は貯蓄の切り崩しなどで補っている(あくまで一例。地方と都市部では支出に差があり)。
豊かとされている高齢世帯がこの現状であれば、昔でいう「隠居生活」などは、夢のまた夢。体が動かなくなるまで働かざるをえない社会に、残念ながら(?)突入しているのである。
その証拠というのも何だが、全産業の就業者数の推移でいえば、平成28(2016)年時点で全就業者数(6,465万人)のうち、60~64歳は8.1%、65~69歳は6.8%、70歳以上は5.1%となっており、就業者に占める高齢者の割合は年々増加傾向にある(「労働力調査」2017年総務省)。
「肉体労働」に近い業種であれば求人数は多い
ただ60歳以上の有効求人倍率は上がっているが、実際の就職者数には結びついてはいないことにも注意が必要だ。例えば60歳以上で就労を希望する割合は71.9%だが、65歳以上で実際に雇用されているのは13.5%となっている(内閣府)。
年齢に関わりなく採用機会を均等にするよう求める「雇用対策法10条」によって、表向き高齢者の募集は増えているものの、実際65歳以上を採用する企業は少ない。企業側も募集はするものの、応募があっても書類選考で切り捨てる、などということは当たり前に行われているようだ。
では、高齢者たちはいったいどのような仕事に従事しているのだろうか。シニアの求人が少ないというのは、希望者も多いデスクワークの場合である。体力を使う仕事、つまり「肉体労働」に近い業種であれば、比較的求人数は多い。「肉体労働系」で求人の多い業種は主に以下の3つに分けられる。
①マンションやビルの管理員(人)など
こちらはシニアに人気のある業種のひとつである。主な仕事は「受付業務」「点検・巡回業務」「立会業務」「報告連絡業務」「清掃」といったもの。例えば、マンションの中を巡回して、電球などは切れていないか、自動ドアやエレベーターはきちんと動いているかなどのチェックや駐車場、エントランス、階段他の清掃ビルなどといったものが主な業務である。ビル管理であればボイラー技士や消防設備士、マンション管理であれば、建築物環境衛生管理技術者やマンション管理士といった資格があれば、再就職の際に有利となる。勤務時間は9時から17時と規則的な時間帯がほとんど。
②介護系の送迎やタクシー、トラック、長距離バス運転手(含む補助)など
普通免許を持ってさえいればはじめられやすく、業界全体的でも常に人手が足りてない状態。現在のドライバーは、ただ運転すれば良い、という類のものは少なくなっている。例えば、介護施設からの送迎の際の介助作業、配送トラックでいえば荷物の積み下ろし、というように、「運転+アルファ」がドライバーには求められている。ネット通販の広がりとともに、配送のニーズが広がっているが、不規則な勤務時間、あるいは長時間労働、重い荷物の積み下ろしなど、高齢者にとって肉体的負担は決して軽いものではない。
③警備員、建築現場、解体現場作業員など
未経験でも働くことができる「現場作業」が主な仕事だ。屋外での作業が多く、天候にも左右される(あまりにひどい天候状態あれば現場作業は中止となる)。季節に関係なく現場はあるので、例えば真冬の極寒や真夏の酷暑の中での作業は、たとえそれが単純なものであっても体力のない高齢者には、とてもハードな内容になる(逆に慣れない未経験者ほど厳しい)。ただ、一級土木施工管理技士やフォークリフトなどの「現場系」の資格の有無によって、また作業内容や待遇は変わってくる。
これらは主にいわゆる正社員(含契約社員)を想定している仕事だが、この他にも、販売や工場内軽作業など、いわゆるパート・アルバイトの求人はさらに多くある。しかし、若い世代に交じって作業するのは、体力的にも精神的にもあまり余裕があるものではない。しかも賃金は現役時代の半分といってもよい水準だ。
とはいえ、退職後は、働くにしてももっとラクしたい、もっと余裕や社会貢献を感じたいというのがシニアエイジの本音であろう。では、前述のような現実を見据えた上で、40、50代の元気な内に、退職までに我々がすべき準備とは何だろうか(本稿、すべてにおいて資産運用をしない、という前提である)。
教科書的なことでいえば、定年後を見据えた資産の確認、計算が真っ先に必要である。例えば「ねんきん定期便」を確認し、年金の見込み額、加入記録、支給開始時期は必ずチェックをする。同様に退職金の見込み額、保険や有価証券などの資産の再確認をした上で、90歳まで生きるとして月いくら必要になるかを計算することは必須だ(簡単なものであればネットの無料アプリなどは多数ある)。
正社員、フルタイムで働く必要の有無などを勘案し、がっつりと働かざるを得ないとの想定であれば、対策を講じる。前述の①~③での労働でも少し触れたが、「現場系」の資格をコツコツ取得しておくのも良いだろう。定年後の資格として、中小企業診断士や社会保険労務士などの事務系のものが人気だが、難易度が高い上、コネクションがなければ、新規クライアントの取得は実際難しいというのが現実である。
であれば、保持しているだけで待遇が上がる「現場系」の資格を取得するのも選択肢のひとつだ。一級土木施工管理技士、危険物取扱者、フォークリフト、小規模ボイラー技士、ガス溶接技能者など、現場経験がなくとも講習だけで取得可能のものもある。他にタクシードライバーの場合、語学力のある人材であれば、インバウンド需要からかなり好待遇が期待できる。都心部の求人が中心であるが、月収50万円前後の給与(額面)を保証する求人は当たり前に見られる(*コロナ禍以前のデータです)。
老後を見据えた準備はいうまでもなく重要である。特に「お金」は最重要ともいえるキーワードだ。手持ちの老後資金と年金の収入以外で足りなければ、やはり再雇用、再就職という選択肢は出てくるだろう。簡単な資格を取るだけでも、後々の生活は変わってくる。労働という負担を少しでも減らしたければ、本格的な「資産運用」を始めるのも当然ありだ。難しく考え、不安ばかりを抱えていてはキリがない。いずれにせよ、早い段階で、現実と向き合ったプランニングをはじめることが吉である。