超高層マンションは本当に憧れるべきものなのか
超高層のタワーマンションには都会的で快適というイメージがあります。広告などでは「レインボーブリッジを見下ろす超高層マンション」などといった言葉も見かけますが、超高層での暮らしは本当に憧れに足る、快適なものでしょうか。
最初に結論を申し上げておくと、生活や子育て、費用の問題から見て超高層マンションにはまだ解決されていない問題が山積みしています。そうした未解決の問題を抱えたまま超高層マンションを作り続けるのはどういうことなのか。以下、簡単に問題を取り上げてみましょう。
●子育てには不向きな超高層マンション
まずは生活そのものから考えてみましょう。住まいが高層階にある場合、確かに見晴らしはいいはずです。でも我が家の玄関からエントランスまでの移動時間はかかります。通勤や通学はもちろん、ゴミ出しや新聞を取りに行くのも億劫です。
また、エレベータの台数が少なければ待ち時間も必要で、外出は面倒と思うようになる人もいるようです。最近は高速のエレベータが増え、乗っている時間自体は短縮されていますが、通勤、通学の時間帯に乗りたい人が集中し、なかなかエントランスまでたどり着けないという話もあります。
「高層マンション症候群(白石拓著・祥伝社新書)」は東京大学医学部母子保健学教室の織田正昭氏らの調査を紹介していますが、それによると、14~29階に住む母親の2人にひとり以上、56.2%もの人がエレベータの利用に不安を感じていると言います。母親が外出しないとなれば、小さな子は当然、外出の機会も減ります。
同書では奈良女子大学のグループによる研究で、15~31階に住む母親の2人にひとりは「子どもだけでは遊びに行かせない」と答えていることも紹介しています。14階以下に住む母親の場合は10人にひとりだけが遊びに行かせないとしている結果に比べると、高層階の母親は子どもだけの外出、外遊びに強い不安を抱いていると理解できます。エレベータ利用への不安に加え、高層階からでは子どもに目が届かないということも理由のひとつと考えられます。
母子ともに外出が少なくなると、問題になるのが母子密着です。子どもに愛情を注ぐことは大事ですが、それが過ぎると過保護となり、親離れ、子離れが遅れます。この点でも前出の織田氏は他の調査で14~29階の母子の密着度がそれ以下の階数の母子に比べて1.5倍近くも高いとしています。
さらに、外で友達と遊ばず体を動かさずに育つとなると、健康や社会性の問題も気になるところです。そう考えると子育てファミリーは、超高層マンションを選ぶのに慎重でなければなりません。
●超高層マンションでは大規模修繕に莫大な費用がかかる
次に維持管理面を考えてみましょう。たとえば大規模修繕。地上45m(15階相当)までの建物であれば、地面から組み上げる普通の足場が使えるのですが、それ以上の超高層マンションではそうした足場が使えません。
そのため、ゴンドラを吊して作業をするなど、いわゆる特殊足場を使うことになります。この特殊足場は作業できる会社が限られるため、コスト競争力が及ばず、残念ながら工事費が割高になってしまうようです。
一般的には架設工事費(足場を組むための費用等)が大規模修繕全体のコストに占める割合は10%前後です。これが超高層マンションになると30~40%にも及ぶと言われています。つまり、超高層という高さが、大規模修繕工事を行うための予備工事代金の増加という、言わば実質的修繕工事以外の余分な出費を多くする原因を作ります。
こうした費用面の問題に加え、国内では歴史が浅いこともあって、これまでのところ、超高層マンションの大規模修繕はあまり実績がありません。当初は10~15年ごとに行うと言いながら、先延ばしするマンションもあるようで、これでは資産価値維持は難しいだろうと思われます。
一般には超高層マンションは資産価値が高いと思われていますが、実際は、まだ評価をするには早すぎると私は考えます。
また、災害時の危険は私が指摘しなくても、多くの人がご存知の通り。たとえ、建物が倒壊せずとも、高層階での火災は考えたくもないですし、エレベータの定期点検や停電時のバックアップ体制はあるでしょうが、完全ということはありません。もし、地上30階まで上らなければならないとしたら若い人にも辛いはず。
またコミュニティ育成の難しさや、それに関連する管理組合の問題、地震の長期振動の問題や街の景観としての問題など、最近では数々の問題を指摘する書籍や雑誌記事も目につくようになってきました。人が居住する高さには限界があると思います。私はこれが快適な居住空間とはとうてい思えません。
スポーツジムに共同浴場…その共用施設は本当に必要?
少しやりすぎかな……と最近目につくのは、大規模物件や超高層マンションでセールスポイントとしている「充実した共用施設」です。パーティールーム、ゲストルームなどの一般的な施設はもちろん、最近ではスポーツジムや共同浴場、カフェやバーといった変わり種施設を売り物にするマンションも登場しています。パンフレットでは楽しそうなイメージ写真でそのメリットが謳われ、つい充実した共用施設は生活を豊かにしてくれると思ってしまいます。
しかし、これらの施設は本当に必要でしょうか。まず、金銭面で考えると、共用施設はあるだけで分譲価格に跳ね返ります。たとえば、100坪のスポーツジムを作るために建築費が坪あたり50万円ならば、建物代は5000万円になります。そこに2000万円で最新の各種トレーニング機器を導入すると合計額は7000万円。200戸のマンションであるとすると、1戸あたり35万円が販売原価に上乗せされます。
もちろん、スポーツジムを作るようなマンションであれば、共用施設がそれだけということもなく、そこにパーティールームやゲストルームなどの建築費も加わり、1戸あたりの負担額はさらに大きくなります。まずは、それだけの費用を払うほど、これらの施設に価値があるかを考える必要があります。
ちなみにローンの返済額が100万円増えると、35年返済、金利3%の場合では毎月4000円、年間4万8000円を余分に払う計算になります。購入金額が高くなるだけならよしとする考えもありますが、その施設を維持する管理費や修繕費も徴収されるはずです。買った時に払い、入居してからも払い続け……と、共用施設は住んでいる限り、お金がかかるものなのです。
中には利用料収入があるから、それで賄えると説明する営業マンがいるかもしれませんが、200戸や500戸のマンションでカフェが維持経費を捻出するための売り上げを確保するのは困難なはずです。またコンビニなども同様です。成り立たない部分は管理費からの持ち出しになる可能性は見逃せません。
●あってうれしいはずの共用施設がトラブルの種に
もちろん、そうした施設を使うことで楽しい毎日が送られれば、その金額に見合う価値があると思えますが、そうではない場合もあり得ます。人によっては施設があっても使わないこともあります。そうなると、マンションという特殊環境では金銭面以外の問題に発展する恐れも出てきます。
たとえば、スポーツジム付きのとあるマンション。ここのジムはスポーツジム運営会社と提携し、エクササイズメニューなどもあり、定期的にインストラクターが派遣されてくるという本格的なものでした。
しかし、デベロッパーが費用を負担する提携期間は最初の1年間だけ。それ以降は入居者が利用を継続するかどうかを決め、2年目からの費用は入居者全員で負担するというしくみになっていたのですが、マンションで何かを決める場合には入居者の過半数の票が必要になります。
このマンションの戸数を300戸と仮定しましょう。その場合、スポーツジムの利用を継続するためには過半数、つまり151世帯以上の賛成が求められるのです。果たしてそれだけの人が使っているかどうか。
もし、使っていたとしても2年目から別途スポーツジム提携費用を新たに徴収されることには抵抗を感じる人も少なくないでしょう。さらに使っていない人なら、怒りすら覚えても不思議ではありません。
ここでジムを使っている人、使っていない人、使っていても新たにお金を払いたくない人などと住民間に対立が生まれることは容易に想像できます。中には今後のお付き合いのことを考えて管理組合や他の住民に文句も言えず、もう管理には関わりたくないという人も出てくるでしょう。チラシに書かれた、たった一行の文字の裏側を見過ごしたことで、入居したてのマンションがギスギスした人間関係に変わってしまうこともあるのです。
こうなるともう、コミュニティは機能しなくなります。管理組合は話し合いで物事を決める機関ですから、対立関係あり、無関心な人ありと、参加者が減っていくと建物価値の維持に必要な修繕計画が決議できなくなるなど、実際の生活に悪影響が出てくる可能性もあります。「とりあえずあれば使うかなあ……」「あれば友達に自慢できるな」くらいの共用施設が住民間の亀裂の原因になるという思わぬ結果になってしまうことも十分考えられます。
最新だったトレーニングマシンも古くもなれば入れ替えです。そんなこともあり、コスト面以外の問題でも、何年か経つと過剰な共用施設は使われなくなる傾向にあります。敷地内の使いにくい場所にあったり、別棟になっていて雨の日には傘を差さなければ行けないような場所にあったりすると面倒ですし、初期のものめずらしさからの利用者は自然と減ってしまうのは当然です。
そうした、人が使用しなくなった過去の空間がマンション内にあることが物件の印象をどれだけ下げるか。資産価値を気にする人であれば、容易に想像できるはずです。
大規模物件の場合、通常よりも多くの戸数を売らなければなりませんから、その分、商品をできるだけ魅力的に見せなければなりません。そのため、他にない共用施設を売りにして、こんなに素敵です!とアピールするわけですが、最終的にはその費用は購入者に回ってきます。冷静に考えれば、なくても生活に支障のない共用施設に惑わされて、住まい本体を見る目が曇らされることがないようにしたいものです。