危険な成功談…「元劣等生が東大に合格した方法」の落とし穴

「元ヤンキーだったのに東大に入った」「お笑い芸人なのに東大に入った」…このような珍しい話に惹かれる人は少なくないでしょう。中には、その成功体験を自分自身で再現するために詳しく知りたがる人もいるはずです。しかし、これらの話は一体どこまで参考になるのでしょうか? ※本連載は、公益社団法人子どもの発達科学研究所・主席研究員の和久田学氏の著書『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』(緑書房)より一部を抜粋・再編集したものです。

同じ「エビデンス」でも、「信頼度」の格付けがある

前回の記事『子育ての決まり文句「お母さんが子どものころは…」の危うさ』では、経験則や経験談を無暗にむやみに一般化し、自分にも当てはまると考えることは相当危険であることを解説しました(関連記事参照)。

 

研究の世界でも、経験だにゃ(※写真はイメージです/PIXTA)
研究の世界でも、経験談や経験則のようなものが存在する(※写真はイメージです/PIXTA)

 

じつは研究の世界でも、経験談や経験則のようなものが存在します。簡単に説明してみたいと思いますが、その前に研究の手法には「科学的根拠(エビデンス)に関するランク」があることをご存じでしょうか。代表的な研究手法を、科学的根拠(エビデンス)レベルが高い順に挙げてみます(【図表】参照)。細かく言うともっとさまざまなものがありますが、ここでは単純化して紹介しましょう。最もエビデンスが高い(科学的事実として間違いがない)とされるのが、「システマティックレビュー」です。これは、ある分野で行われた科学的研究をごっそり集めてきて、それをさらに分析するという手法です。

 

【図表】科学的根拠(エビデンス)に関するランク

経験談、経験則のエビデンスレベルは低い

仮に喫煙とがんの関係を調べたいとしましょう(すでに証明済ですが)。そのときシステマティックレビューでは、研究者自身が新たに何らかの調査を行うことはなく、すでに発表されている研究論文を集めるのです。何しろがんの研究は世界中でなされています。喫煙とがんの関係を調べた研究だって、世の中にはたくさん存在しているのです。中には年齢別に調べたもの、人種や性別による差を検討したものなど、いろいろあります。

 

システマティックレビューでは、そうした研究論文を世界中から集めてきて、さらにそれらを分析していきます。そうしたたくさんの研究結果を概観して、結局何がわかったのかを総括します。

 

この研究手法を頂点に、さまざまなエビデンスレベルの研究が存在します。研究と言いつつ、単に個人の意見を表明しただけのものもあれば、非常に偏ったデータしか提示できていないものがあるのです。この辺の見きわめは、研究者であるならば必ずできるようにならなければなりません。

 

さて、研究手法の中に「ケースシリーズ」「ケーススタディー」というものがあります。スタディー=研究なので、これらを直訳するとケーススタディーは「事例研究」、ケースシリーズは「事例群研究」となりますが、これらこそがここで話題にしている経験談と経験則なのです。

 

ケーススタディーとは、ひとつの事例を詳しく取り上げるもの。「Aさんががんになりました。その発見から治療までの流れを取り上げましょう」という感じです。ケースシリーズは、そうした事例を複数集めたもので、「B病院を受診したがん患者15人について調べてみたところ、xxといった傾向が見いだされました」といった研究がこれにあたります。

 

ケーススタディーは研究者による経験談であり、ケースシリーズは研究者が複数の経験から見いだした経験則を提示したものということになるでしょう。さて、ケーススタディーとケースシリーズのエビデンスレベルですが、どう思いますか? 科学的根拠(エビデンス)があるとして良いでしょうか? もちろん、そんなわけにはいきません。何しろひとつや2つ程度のケースでは、それ固有の影響が大きいものです。

 

喫煙によってがんのリスクが高まることは、誰でも知っていますよね? でも、喫煙者全員ががんになるわけではありません。かなりのヘビースモーカーであるにもかかわらず、健康で長生きをする人も出てきます。長生きをしたあるおじいさんが、「わしの長寿の秘訣はタバコだ。タバコをやめてストレスにさらされるより、好きなだけ吸って楽しく生きたほうがいいに決まってる」と言ったとして、その意見をあなたは採用しますか?

 

たぶんそのおじいさんは、喫煙の悪い影響を受けにくい特別な体質だったか、ものすごくラッキーだったか、のどちらかです。この例は極端かもしれませんが、ケーススタディーの場合、こうした偏ったケースが混じる可能性がつきものなのです。つまり、ひとつの事例以上でも以下でもないということになります。だから研究においては、ケーススタディー、ケースシリーズともにエビデンスレベルは低いとされるわけです。参考になる場合も多いのですが、注意が必要と考えるべきでしょう。

 

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公益社団法人 子どもの発達科学研究所 主席研究員
大阪大学大学院連合小児発達科学研究科 特任講師
 

特別支援学校の教師として20年以上勤務した後、科学的根拠に基づいた子どもの支援を研究し、小児発達学の博士号を取得。専門領域はいじめや不登校など子どもの問題行動の予防、支援者のトレーニング、介入支援のプログラムなど。著書に『学校を変えるいじめの科学』(日本評論社)がある。

公益社団法人 子どもの発達科学研究所:http://kodomolove.org/

著者紹介

連載小児発達学の専門家が解説!エビデンスに基づく、子育てにおける「経験則」の使い方

科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実

科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実

和久田 学

緑書房

これまで語られてきた「子育ての常識」は本当に正しいのか? 経験則で語られることの多い子育てについて、科学的根拠(エビデンス)に基づき理論的に解説。子育てや教育現場で実際に役立つ考え方、子どもとの向き合い方を紹…

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