新型コロナウイルスの猛威は衰えを知らず、第2波、第3波の到来も危惧される状況が続く。この時勢、パンデミック客船「ダイヤモンド・プリンセス」の実態を告発した神戸大学医学部附属病院感染症内科・岩田健太郎教授が提言する「病の存在」は、まさに今議論されるべき事柄と言えるだろう。本連載は、岩田健太郎氏の著書『感染症は実在しない』(集英社インターナショナル)から一部を抜粋した原稿です。
もちとこんにゃくゼリー…どっちの価値を重視する?
ほとんどすべての事物の獲得は、病気の可能性との交換です。勉強のしすぎも運動のしすぎもセックスのしすぎも病気の原因となります。こんにゃくゼリーを食べるとのどが詰まるというので販売停止にしろ、という議論がありました。しかし、実際にはもちをのどに詰まらせて死亡する高齢者のほうが多いのだそうです。同じ論理を用いれば、「もちの販売も禁止しろ」という話になるはずですが、そういう議論は起きません。バカバカしくて起こせないのでしょう。
私たちは、もちという普遍的な価値を大切にしており、ある程度の病気や死との交換のリスクは甘受してもかまわない、少なくとも、もちは日本人にとってこんにゃくゼリーよりも普遍的で大切で排除が困難であり、より価値が高いものであると考えているからでしょう。そういう価値観の交換が行われている限り、こんにゃくゼリーはダメだけどもちは大丈夫という一見理不尽なダブルスタンダードも、実はすんなり理解できるかもしれません。
神戸大学医学研究科感染症内科教授
岩田 健太郎
神戸大学病院感染症内科
教授
1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター医療リスクマネジメント分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学病院感染症内科診療科長。著書に『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)、『感染症は実在しない』(インターナショナル新書)、『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』(光文社新書)など多数。
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連載「コロナは実在するのか」…感染症の第一人者が語る「病の存在論」