日中に襲われる強烈な眠気、会議中あるいは作業中に意識が飛ぶような感覚。多くの人が日常で感じているこれらの症状のなかに、単なる眠気や疲れとして見過ごせない、深刻な問題が潜んでいるケースがあるのです。スタンフォード大学医学部教授が、睡眠トラブルの問題について警告します。※本記事は、スタンフォード大学医学部教授・西野精治氏の著書『スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣』(PHP研究所)より抜粋・再編集したものです。

時差ぼけによる不眠・眠気・倦怠感等を避けるには

時差ぼけも、外的な要因により身体のリズムの内的脱同調が引き起こされることから生じます。

 

身体の順応性を示すこんな実験があります。マウスやラットは夜行性なので、夜に活動性が高く、昼間は休息状態にあります。それを、昼間に明かりを消して、夜につけるというかたちで、突然、昼夜逆転させたサイクルにするとどうなるか。

 

最終的には、新しい明暗サイクルに同調することができます。ただし、体内時計は1日1時間ずつしか新しいサイクルに同調できません。ですから、6時間ずらしたら、新しい明暗サイクルに同調するのに、6日かかります。

 

これは人間の身体でも同じです。再同調するには1日1時間ずつしか調節できないのに、いきなり現地の時刻に合わせなければならない。これが時差ぼけで不眠や昼間の眠気、倦怠感、その他諸々の不調が生じる原因です。

 

たとえば、サンフランシスコと東京だと時差は17時間。夏時間と冬時間で1時間違ってきますが、東京のほうが進んでいます。現地に着いたとき、身体はまだ日本時間で動いています(図表)。

 

西野精治「トライアスリートはいかにして時差と付き合うべきか【特集:トライアスロンと旅】」〈参照〉https://www.life-rhythm.net/nishino/
[図表]サンフランシスコ/パリと東京の時差と体温の変化 出所:西野精治「トライアスリートはいかにして時差と付き合うべきか【特集:トライアスロンと旅】」
〈参照〉https://www.life-rhythm.net/nishino/

 

サンフランシスコに午前10時に着いたとすると、体内時計のほうは午前3時ぐらいです。いちばん強力で安定したリズムの体温の変化でいえば、一日中でもっとも体温が下がっているときです。着いたばかりはけっこう高揚していますから、あまり眠気は感じずに行動できるかもしれません。

 

ところが、そのまま行動して夜になったとき、体内時計のほうは正午近く、覚醒系ホルモンのコルチゾール分泌が高くなっています。体温もさらに上がる時間ですので、寝ようと思ってもなかなか眠れません。こうして時差による睡眠不足や体調不良がはじまります。

 

17時間の時差の場合、再同調は24時間を単位として早く順応できる方向にずれます。すなわちマイナス7時間のほうに同調します。自分の身体のリズムを現地のサンフランシスコに合わせたかったら、7時間前にずらせばいいのですが、それには1週間ぐらいかかります。しかも、後ろにずらすより前にずらすほうが同調するまでに時間がかかり、長いほうに再同調するときも、よりつらいのです。

 

時差の幅と、ずれの方向は、渡航地により当然異なります。パリへの渡航でもサンフランシスコ渡航と同様にシミュレーションしてください。

 

長期間の滞在ならそのペースで少しずつ再同調させていけばいいですが、旅行や出張だと、同調するまで7日だとすると、せっかく同調したころには帰国ということになります。では、短期間の滞在の場合、どうしたら時差ぼけに悩まされずに、現地で有意義な時間を過ごせるか。

 

ひとつは、現地時間の朝に太陽の光をしっかり浴びることです。1日の始まりの段階でマスター体内時計をリセットさせる。光の効用で、体内時計の調節とメラトニンの分泌時間のコントロールをするのです。といっても、現地時間の夜、ただちにメラトニンが分泌されるわけではありませんが。

 

あるいはまた、メラトニンを直接取り入れるという方法もあります。アメリカでは、メラトニンはサプリメントとして空港などでもよく売られています。時差ぼけ調整にも役立つことがよく知られているからです。

 

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スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣

スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣

西野 精治

PHP研究所

睡眠とは単なる休息ではなく、あらゆる生命現象の基盤である―。世界最高峰といわれるスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所所長が、「脳の老廃物を洗い流す『グリンパティック・システム』」などの睡眠研究の最前線から、「…

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