仕事の敵「アフタヌーンディップ」の撃退法
昼食後の午後2時ごろになると、「どうも、やる気が低下する」「眠気が出てくる」、こんな経験はありませんか? それは、「アフタヌーンディップ」。
昼食を摂って満腹になることで、脳への血流が減るからといわれますが、むしろ、これは体内リズムの問題です。昼食を摂ろうが摂るまいが、覚醒レベルがちょっと低下しやすい時間帯なのです。
霊長類の猿なども、この時間帯によく昼寝をしますので、私は、「アフタヌーンディップ」は、系統発生による昼寝のなごりではないかと思っています。
とはいえ、昼食を食べすぎると、満腹感から気だるさが出て、意欲が低減しやすいことは確かです。ランチは適度な量にしておいたほうが、午後のパフォーマンスにはいいと思います。
アフタヌーンディップを撃退するには、覚醒系の神経伝達物質が活発になるようにすればいいのです。たとえば、ものを「嚙む」ことは、脳を活性化させる働きがあります。ランチも、量をたくさん食べるのではなく、よく嚙んで食べることを意識すると、脳にも、消化にもいい。
ガムを嚙むというのも眠気覚ましに効果があります。メジャーリーグの試合を観ていると、選手たちはプレイ中によくガムを嚙んでいます。あれには、意識の覚醒度を高めるのと、よけいな緊張による力みをとる、ダブルの効果があるといわれています。
力んでしまうと肩や腕にへんな力が入ります。口もぐっと食いしばるような感じになる。しかしガムを嚙んで顎を動かしていると、その力みが抜ける。ですから、アメリカのスポーツ選手は、ガムを嚙んでいることが多いのです。
眠気撃退の定番といえば、カフェイン。カフェイン入りの飲み物の代表格がコーヒーで、世界中で古くから愛用されています。紅茶や緑茶にもカフェインは含まれています。
カフェインは、動物の体内では構成できない植物由来の覚醒を促す物質。DNAなどの核酸成分でもあり、眠気を促すアデノシンという物質の作用に対抗します。冷たい飲み物のほうが目が覚める気がするかもしれませんが、身体の深部体温を高めるほうが活動量を上げられるので、温かい状態で飲んだほうが効果が期待できます。
核酸は微生物も含め、すべての生物の構成成分ですので、睡眠の起源は非常に古いものだと私は考えています。アデノシンを介して睡眠を調節することは、太古から存在し、植物や下等生物から人類まで必要としてきた……などと想像を膨らませてみるのも眠気覚ましによいかもしれません。
強烈な眠気があり、能率が落ちてしまうようなら、やはり仮眠をとるのが正解です。「パワーナップ※」をとることをお勧めします。
※「パワー」と「ナップ(昼寝)」を合わせた造語で、米国コーネル大学の社会心理学者ジェームス・マース氏が命名。パワーナップには睡眠不足をカバーし、脳の疲れを解消して仕事や勉強の作業効率をアップさせる効果がある。
オフィスに、そのための仮眠コーナーが設けられていると、休憩しやすくなります。ベッドを用意したり、個室にしたりというような大げさなものでなくても、その一角だけ明かりを落とし、リクライニングできるチェアを用意しておいて、アイマスクをかけて寝るくらいの感じで十分でしょう。
なまじベッドなどがあると、つい長く横になってしまいたくなるので、20分程度の仮眠には、首や肩などをリラックスさせられる程度のシートのほうが、ちょうどいいのです。
こそこそと寝るのではなく、眠気も疲れも吹き飛ばし、リフレッシュして能率アップを図るために、積極的に、正々堂々と20分ほどの仮眠をとる。睡眠負債を抱えがちなビジネスパーソンの体調管理の一環として、もっと広まってほしい習慣です。
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西野 精治
スタンフォード大学 医学部精神科教授・医学博士・医師
スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長
日本睡眠学会専門医、米国睡眠学会誌、「SLEEP」編集委員
日本睡眠学会誌、「Biological Rhythm and Sleep」編集委員