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ジャクソンホール会議におけるパウエル議長の発言内容は、概ね事前の市場予想に沿ったものでした。ただ、用意周到で、「金融政策の長期的目標と戦略を定めた文書(以後、文書)」の改訂を公表し、準備が整っていることを示しました。「文書」の主な変更点は、今回のパウエル議長の講演の要旨を反映していると見られます。

ジャクソンホール会議:期間平均での2%のインフレ率を目指すことを明確化

カンザスシティ地区連銀が主催する年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長は2020年8月27日、金融政策の新たなアプローチとして、期間平均で2%のインフレ率を目指すと表明しました。インフレの下振れが続いた後、インフレ率が2%を超える期間を容認する政策運営が示唆されました。

 

なお、同日、米連邦公開市場委員会(FOMC)は「金融政策の長期的目標と戦略を定めた文書」の表現を、全会一致で、一部変更したことを発表しました。

どこに注目すべきか:雇用最大化、物価安定、平均期間、中立金利

ジャクソンホール会議におけるパウエル議長の発言内容は、概ね事前の市場予想に沿ったものでした。ただ、用意周到で、「金融政策の長期的目標と戦略を定めた文書(以後、文書)」の改訂を公表し、準備が整っていることを示しました。「文書」の主な変更点は、今回のパウエル議長の講演の要旨を反映していると見られます。

 

「文書」の主な変更点を次の3点にまとめました。最初は雇用の最大化についてです。FRBの責務は雇用の最大化と物価の安定(長期金利の低下もありますが、通常物価安定に含める)が知られています。雇用最大化は失業率(の低下)で、インフレ率はコア個人支出(PCE)価格指数を指標に推移を見ると(図表参照)、金融危機前は、失業率が低下するとインフレ率は概ね上昇する傾向が見られました。しかし(コロナ感染の時期は複雑ですが)、失業率の低下と物価の上昇の関連性が低下したようにも見られます。

 

先の「文書」の改訂ではこの点について、従来は最大雇用水準からの乖離重視から不足重視としています。何が変わるかを想定すると、従来は自然失業率(インフレを加速も減速もさせない失業率水準)から乖離、例えば下回ったとすると金融引締めが選好されましたが、より柔軟に運営することで、雇用の改善を重視することになると思われます。

 

もっとも、パウエル議長は最大雇用の数値目標を明確にしたわけではなく、どのように運営されるのか、今後確認が必要ですが、長期失業(不足)の改善が期待できるかもしれません。

 

次にインフレ目標を期間平均とすることです。パウエル議長がジャクソンホールでこの点について言及することは幅広く市場で予想されていましたが、「文書」でも明確に示されています。改定後の表現では、「インフレ率がFRBの目標である2%を一定期間下回った後の適切な政策は、しばらくの間、2%をやや上回るインフレ率を目指す」となっています。

 

なお、肝心の一定期間がどれくらいなのかは示されておらず、当局と市場の対話が今後重要になることが想定されます。

 

最後に、低水準の金利に政策運営の困難さを指摘しています。金融当局が政策金利の目安として推定する中立金利(景気にニュートラルな金利水準)は低下傾向であることが指摘されています。パウエル議長も政策金利が下限に接近したことにより、政策運営が困難となっていることを指摘しています。そのため最大雇用や物価目標を維持することが困難で、下振れリスクが高まる可能性を指摘したうえで、今回、金融政策の強化を提案したとものと見られます。

 

なお、低水準の金利の問題に直面しているのはFRBだけではありません。ユーロ圏や他の先進国も同じ問題を抱えており、波及効果も考えられます。既にカナダ中銀は見直しに着手しています。またFOMCも文書を毎年1月に必要に応じて修正し、5年ごとに公の意見を取り入れて見直す作業を行うとも声明に記されています。息の長いテーマとなりそうです。

 

月次、期間:2000年7月~2020年7月、コアPCEは前年同月比、6月迄  出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
[図表]米国政策金利誘導目標とコアPCEの推移 月次、期間:2000年7月~2020年7月、コアPCEは前年同月比、6月迄
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『市場予想通りだったジャクソンホール発言の舞台裏』を参照)。

 

(2020年8月28日)

 

梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社

運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト

 

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