どうせ…と落ち込んだとき、「次の2文字」が言えれば成功する

偏差値52からスタートし見事京都大学に合格した農業研究者・篠原信氏は、水耕栽培の分野にて続々と新規技術を開発している。同氏は書籍『ひらめかない人のためのイノベーションの技法』(実務教育出版)にて、「センスがなくても創造的な仕事を生み出すことは可能である」と断言しているが、その根拠は何だろうか? 本連載でひも解いていこう。

「どうせ…」と思うものにこそ、ひらめきのヒント

「どうせ」──この言葉ほど、思考を停止させるものはないかもしれない。自分の仕事や商品を見下し、なぜうまくいかないのか、なぜその試みがムダなのかを豊富な知識や体験談で証明してみせ、「どうせ…」と吐き捨てるように発言する人は多い(特に男性に)。

 

どうせ俺なんか…とボヤく人が多いが。(※写真はイメージです/PIXTA)
どうせ俺なんか…とボヤく人は多いが。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

しかし私には、「どうせ」と思われているものこそ、イノベーションの宝庫のように思う。「どうせ」を「どうせなら」に変えるだけで、産業自体が生まれ変わった事例が数多く存在するからだ。

 

今や、憧れの職業の一つとして定着している看護師という仕事。じつはナイチンゲールが登場するまで、あまりカッコよくない、いやむしろ良家の子女なら手を出すべきではない職業として、見下されていたことをご存知だろうか。ナイチンゲール以前の看護師は、病人やケガ人の血や膿(うみ)、吐いたもので「どうせ」汚れるから、汚い格好のまま患者の世話をしていたのが実態だった。その見た目、不潔さが、蔑(さげす)まれる原因ともなっていた。

 

ところがナイチンゲールが、その価値観を逆転させた。血や膿で汚れたら、すぐに清潔な服に着替える。患者用ベッドのシーツも清潔なものに取り替え、病室を常に衛生的に保ち、患者にとって快適な環境を提供するように努めた。それまでの看護師が、「どうせ血や膿で病室も服も汚れるのだから」と諦めていたのを、「どうせなら清潔な服に着替えて看護しよう」に発想を切り替え、どこまでも衛生的なものにした。

 

すると興味深いことに、患者の死亡率が劇的に減少した。じつは、患者の死亡原因はケガや病気よりも、病室の不潔さによる二次感染の影響が大きかった。それをナイチンゲールの「どうせなら」が逆転させ、改善させたわけだ。

 

イラスト:植田たてり
ナイチンゲールの「どうせなら」発想 イラスト:吉村堂

「トイレは『どうせ』汚れるもの」を発想転換した結果

これと似た話がトイレにもある。ある女子大生が、卒論テーマにトイレを選んだ。その論文が画期的だったのは、「観光地のリピーターが増えるかどうかは、女子トイレの清潔さで決まる」ことを示したことにある。それまでのトイレは、汚れるのも臭いのも当然と考えられ、公衆トイレは特にひどかった。当時は観光地もトイレを改善する発想がなかった。

 

しかも、女性はトイレに時間がかかるもの。せっかくの楽しい家族旅行も、女子トイレが少なくて並ばねばならず、夫から怒鳴られる上にトイレも汚いため、「もうあそこには行きたくない」となることが多い。このことを、その女子大生は喝破(かっぱ)したわけだ。

 

この女子大生がトイレメーカーに就職した、というニュースが新聞に載(の)ったあたりから、全国でトイレが変わり始めた。清潔で快適なトイレが増え、「リピーターを増やすためには、まずトイレを改善することが大切だ」という認識が、全国の観光地で広がった。

 

「どうせ」汚れるもの、下の世話をするだけの不潔でも仕方ない場所と思われていたトイレを、「どうせなら」快適で清潔な、汚したら申し訳なく思うくらいの空間に変えてしまおうという発想が行き渡り、今や世界にこの設計思想が広がっている。

 

イラスト:植田たてり
「どうせならトイレをキレイにしよう」がもたらしたこと イラスト:吉村堂

農業研究者

1971年生まれ、大阪府出身。農学博士(京都大学)。

中学時代に偏差値52からスタートし、四苦八苦の末、三度目の正直で京都大学に合格。大学入学と同時に塾を主宰。不登校児や学習障害児、非行少年などを積極的に引き受け、およそ100人の子どもたちに向き合う。

本職は研究者で、水耕栽培(養液栽培)では不可能とされていた有機質肥料の使用を可能にする栽培技術や、土壌を人工的に創出する技術を開発。世界でも例を見ない技術であることから、「2012年度農林水産研究成果10大トピックス」を受賞。

著書に『自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科書』(文響社)、『子どもの地頭とやる気が育つおもしろい方法』(朝日新聞出版)があるほか、「JBpress」や「東洋経済オンライン」などに記事を発表している。

著者紹介

連載AI時代を勝ち抜く人材になる!センスがなくても創造的な仕事を生み出す方法

  • 【第1回】 どうせ…と落ち込んだとき、「次の2文字」が言えれば成功する
ひらめかない人のためのイノベーションの技法

ひらめかない人のためのイノベーションの技法

著者:篠原 信

カバーイラスト:植田 たてり

本文イラスト:吉村堂

実務教育出版

センスがなくてもイノベーションできる! オックスフォード大のオズボーン准教授によると、AI時代の人材には、「創造性」が重要であるという。 創造性というと、「生まれつきのセンス次第」という印象が強い。すると、セ…

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