「騙された…」と思いながらも、もう一度同じ詐欺師に騙されてしまう人間心理とは? *本記事は、眞鍋淳也弁護士の著作『老後の財産は「任意後見」で守りなさい』(幻冬舎MC)から抜粋、再編集したものです。

高齢者を狙った恐ろしい詐欺の実態

投資詐欺に遭った、高額な商品を次々買わされた、といった高齢の方からの相談は「そんなうまい話があるはずがない」と容易に判断できそうなものばかりです。

 

実際、詐欺被害者の多くは「まさか自分が騙されるとは思ってもいなかった」「自分だけは騙されない自信があった」と口にします。

 

テレビなどで高齢者が詐欺被害に遭ったニュースを見聞きしたとき、大方の人が抱く「どうしてそんなに簡単に騙されるのだろう?」「これだけ新聞やテレビで騒がれているのだから、詐欺だと気付いてもよさそうなものなのに。自分なら絶対に騙されない」という思いを、詐欺被害に遭った人たちの多くも抱いていたはずなのです。

 

それにも拘らず被害者になってしまうのには、ある理由があります。

 

それは、加齢による判断能力の低下です。脳の働きは、脳内の神経細胞の活動によって支えられています。記憶や学習、判断をする神経細胞が発達して脳をかたちづくっているのですが、その神経細胞が老化することによって働きが落ちてきます。その結果、物覚えが悪くなったり判断力が衰えたりします。若い頃頭脳明晰だった人ほど、高齢になって自分の判断能力が低下してきているという事実は、認めたくないことであり、受け容れ難いことでもあるのでしょう。

 

しかし、ある程度の年齢になったら「自分の判断力は、十分ではないかもしれない」と自覚することが、自分の財産を守ることにつながるのではないでしょうか。実際に詐欺被害に遭った人の話を聞くと、最初の電話があったときに自分一人で判断せず、周りの人や息子・娘に相談すれば、容易に防ぐことができたケースばかりです。

 

何か問題が起こったときに自分一人で判断しようとせず、相談できる相手を持っておけば、詐欺等のリスクを回避することは十分可能なのです。しかし場合によっては、判断能力の低下を自覚するだけでは防ぎようのない事態に陥ることもあり得ます。

 

それは認知症の発症です。

 

加齢とともに、それまでできていた記憶や正しい判断、かつて学習した事柄の正しい理解などができなくなり、その障害の程度が所定のレベルを超えたとき、認知症が発症したと認められます。本人が本来持っている性格や置かれた環境、周囲との人間関係といったいくつもの要因が絡み合って、うつ状態や妄想といった精神症状が起こったり、日常生活への適応が困難になったりすることもあります。

 

認知症にはいくつかの種類がありますが、一番多いのは、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程で起きるアルツハイマー型認知症です。それに次いで、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による血管性認知症も多く見られます。

 

厚生労働省によると、かつて日本では血管性認知症が多かったのですが、最近このタイプは減ってきており、アルツハイマー型と血管性認知症が合併しているものが多く見られるようになってきています。

 

認知症については糖尿病の人や高脂血症の人がなりやすいといわれ、生活習慣が発症に影響することが指摘されていますが、発症原因については未だ不明な点も多く、決定的な治療法も確立されていません。

 

今後、認知症の高齢者が増えるにつれ、特殊詐欺などの被害に遭う高齢者も増加していくことでしょう。

 

そしてこの記事を読んでいるあなた自身が、その1人にならないとは限らないのです。

 

高齢者が巻き込まれやすい財産トラブルは、特殊詐欺など第三者によるものばかりとは限りません。血を分けた子どもとの間にも多くの財産トラブルが発生しているという、恐ろしい事実があるのです。

 

しかも話を聞くと、あらかじめ適切な対策を講じておけば十分に回避できたと思えることばかりです。対策が後手に回ってしまったために、大きなトラブルに発展しているケースが非常に多いのです。

 

加齢によって認知能力が不十分になることで、どのような財産トラブルに巻き込まれやすくなるのか、具体例を挙げてご説明しましょう。

「取り戻したい」という気持ちが、詐欺師に狙われる

相談者は70歳の男性です。

 

「1000万円を貸し付けてくれれば、毎月100万円ずつ利息を支払います」

 

と持ちかけられ、貸付金契約をしてしまいました。最初の1〜2カ月は約束通り、100万円ずつ利息をもらいましたが、やがてそれも途絶えます。

 

先方に連絡したところ、

 

「現状では、毎月100万円の利息を払うのが難しい状況になったので、500万円追加してください。そうすればうまくいきます」

 

と言われ、さらに500万円の貸付金契約を行いました。

 

しかし、利息が支払われることはなく、相談のため弁護士の元を訪れました。

 

この男性は、東京都区内の庭付き一戸建て住宅に住んでいます。一部上場企業を定年退職し、5000万円の預貯金を持っていました。

 

年間300万円を超える年金収入もあり、経済的に逼迫しているどころか、恵まれている方といえます。それでも本人の心の中には、「これからは年金収入が頼り。足りない分は預貯金を崩すしかない」という焦りに近いものがあったそうです。

 

犯人はそこに付け込むかのように、「お金を貸し付けてくれれば、うまく運用して毎月100万円ずつ利息が支払われます」と持ちかけたのです。普通に考えると「そんなうまい話があるはずがない」と判断できそうなものですが、自分の手元にそれ相応の資金と、「年金だけでは不安」という思いがあったことから、つい乗ってしまいました。

 

また、この男性の場合、最初に騙し取られたお金の運用が失敗しています。ここで懲りて、二度と関わりを持たなければまだよかったのですが、追加資金まで投入しています。

 

実はこれが、相手のやり口なのです。株式投資で失敗したときなどにもよく見られることですが、人間というのは「失敗した分を取り戻したい」という気持ちが働くもののようで、犯人はその心理をうまく利用しているのです。

 

騙されているかもしれないと薄々気付いてはいても、それ以上に「取り戻したい」という気持ちが強く働き、結果として2度も騙される羽目になりました。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

この男性が私の元に相談に訪れたのは、2度目の詐欺被害に遭った後で、すでに3000万円を騙し取られていました。男性には2人の息子がいます。一人はすぐ近くに住んでいるので、最初に被害に遭ったときに相談するなり打ち明けるなりしておけばよかったのですが、それをしなかったことで被害額が大きくなってしまいました。

 

オレオレ詐欺の場合は、息子をかたって騙してくることが多いので、最終的に親が子どもに確認して発覚してしまうのですが、他の詐欺に関していえば、親は子どもに自分が騙されたことを隠し通そうとします。

 

「こんな恥ずかしいことは言えない」「子どもにバカにされたらどうしよう」という気持ちが働くのでしょう。

 

また、特殊詐欺に関しては、警察もあまりあてにはなりません。詐欺の立証は非常に困難であるため、よほど騙された人の数が多く、被害総額が大きくない限り、刑事事件にはなりにくい傾向があるのです。

 

意を決して警察に行ったはいいけれど、相手にされず、「弁護士さんに相談してください」と言われることが多いようです。

 

この男性の場合も同様で、警察では相手にしてもらえませんでした。というのも、いわゆる投資詐欺(儲け話の契約)であれば犯罪として立件できますが、このケースの犯人は非常に巧妙で、男性に対して、投資ではなく貸付金の契約をさせていました。貸したお金をどう使うかは先方の判断次第であり、結果的に儲からなかったとしても、犯罪として立件することは非常に難しいのです。

 

また、被害者が弁護士に相談してくることを知って、犯人側が時間稼ぎをしてくることもあります。何とかして裁判や刑事事件になるのを回避しようとして、

 

「弁護士に相談すると、取り戻せるはずのものも取り戻せなくなりますよ。あなたにだけはお金を返せるように努力しますから、裁判はやめておいた方があなたのためです」

 

などと言ってくるのです。

 

詐欺罪の公訴時効は7年なので、このようなことを言ってのらくらと被害者をかわしながら、引き延ばしにかかってくるというのは、よくあることです。

 

詐欺の被害者のなかには、借金を背負う羽目になったり、自宅まで取られてしまったりした人もいます。この男性の場合、身ぐるみはがされたわけではありませんが、手痛い結果となりました。


 

本連載は、2015年11月25日刊行の書籍『老後の財産は「任意後見」で守りなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ドロ沼相続の出口

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眞鍋 淳也

幻冬舎メディアコンサルティング

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