高齢化に伴い、終末期医療についての話題がたびたび上るようになりました。ほとんどの人が「在宅死」「在宅看取り」を希望しますが、それと同時に介護家族への負担や自宅の医療設備を理由に諦めている実態があります。在宅療養は本当に非現実的なものなのでしょうか。※本記事は『大切な親を家で看取るラクゆる介護』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

「3食手作り」「厳密な栄養管理」に縛られなくていい

ラクゆる介護のポイント③【食事】

食事は配食サービスでもいい。塩分・糖質・カロリーは気にしすぎない

 

在宅療養でたいへんなのが、毎日3度の食事でしょう。家族が手作りで栄養バランスのとれたものを用意してあげられれば、それに越したことはないかもしれませんが、時間的にむずかしいときや体力的に負担が大きいときは、無理をしないようにしてください。

 

高齢の夫婦二人暮らしや昼間に家事をする人がいない環境であれば、家へ弁当を届けてもらえる配食サービスをうまく活用する方法もあります。私のクリニックでも、在宅で療養されている高齢のご夫婦がいます。その方たちは市で提供している配食弁当を1日1回とり、それを昼と夜の2回に分けて食べています。高齢になると食事量も少なくなるので、朝はパンなどの簡単なもので済ませ、昼と夜に弁当を分けて食べるのでちょうどいいということでした。

 

配食弁当といっても、今はメニューもいろいろ選べるようになっていますし、高齢者が食べやすい軟らかさになっているものもあります。

 

また毎日、配達員が家まで届けてくれるので、一人暮らしの高齢者にとっては健康状態の確認にも役立ちます。

 

高齢者の多くは慢性疾患を抱えているため、栄養面でさまざまな制限がある人も多いと思います。血圧が高い人であれば、塩分を一日何g以下にするとか、糖尿病をもつ人なら、糖質やカロリーが多いものは避けるといった食事指導を受けた方もいるでしょう。

 

ただ家庭での食事は、できる範囲で気をつけるというくらいでいいと私は思います。あまり厳密に栄養をコントロールしようとして、介護をする人が疲れてしまったり、高齢者が食べる意欲を失ってしまうほうが問題です。

 

また先ほども述べたように、高齢になると薬の作用が強く出やすくなっています。厳しい食事療法と薬の作用で血糖値が低くなりすぎると、意識を失って倒れたり、ときには昏睡などの危険な状態に陥ることがあります。

 

実際にアメリカで行われた研究では、糖尿病患者のうち血糖値を厳格にコントロールした人(ヘモグロビンA1Cが6.0以下)のほうが、死亡率が高くなることが示されています。

 

そのため現在は高齢者や血糖値を下げる薬を使用している人には、血糖値のコントロールをゆるめる(ヘモグロビンA1Cが7.0~8.5未満)方針になりつつあります。

 

規則正しく食事をして、ときどき好物の甘いものを食べるとか、お酒が好きならたしなむ程度に口にするというのもいいと思います。

 

病院では禁止されていることも、自宅では少し大目に見ましょう。食べることは、要介護の高齢者にとって数少ない楽しみの一つであり、生きる意欲にもなります。

 

特に高齢になると、消化機能が弱ったり、嗅覚が衰えて味がわからなくなるなどして、食欲が落ちることがあります。そういうときも高齢者の好きなもの、食べられるものを食べるように促し、栄養をとってもらうことが重要です。

食事を飲み込めない、よくむせる…誤嚥を防ぐには?

高齢者が、食べるのに時間がかかるようになってきた、食事中にむせることが増痰がよくからむというときは、飲み込み(嚥下)の力が落ちているサインです。

 

食事中にむせて口の中のものが誤って肺に入ると、誤嚥性肺炎の原因になります。それを防ぐためには、とろみがついていて飲み込みやすく、むせにくい「嚥下食」を多くするなどの対応も徐々に必要になってきます。最近では、手軽に食べられる市販の嚥下食も種類が増えています。そうした便利な製品を利用するのもいいでしょう。ただ誤嚥を恐れるあまり、嚥下食以外は一切口にさせない、というのも考えものです。好きなものを食べる楽しみは、できるだけ残してあげてほしいのです。

 

もちろん、むせるのをただ放っておけというわけではありません。食べた後に痰を吸引する、歯科医師と歯科衛生士が口腔ケアの指導をする、言語聴覚士が嚥下の機能訓練をするなど、誤嚥を減らす方法はほかにもあります。心配なときは、やはり在宅医に相談してほしいと思います。

 

【ラクゆる介護のポイント④~⑩】については、次回以降に詳述します。

 

井上 雅樹

医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長

大切な親を家で看取るラクゆる介護

大切な親を家で看取るラクゆる介護

井上 雅樹

幻冬舎メディアコンサルティング

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