肩の痛み…「正しい診断・治療」ができる医師の見極め方

本記事は、麻生総合病院整形外科部長、鈴木一秀氏の著作『「肩」に痛みを感じたら読む本』をより一部を抜粋、再編集したものです。

肩の痛み…「病院へ行っても治らない人」が多いワケ

2013年5月に、製薬会社のファイザーが慢性的な痛みによる通院経験がある全国の20歳以上の男女5150名と、慢性疼痛の治療経験を有する医師103名を対象に、インターネット調査を実施していました。少し古いデータですが、現在と状況は変わっていませんので紹介したいと思います。

 

調査の結果、慢性疼痛を抱えている人の中で「現在、通院している」と回答した人は36.7パーセントで、63.3パーセントの人が通院していないことがわかりました。しかも、通院していない人の約半数(48.4パーセント)は、痛みが緩和していないにもかかわらず通院をやめてしまっていたのです。

 

そこで、103名の医師に対して「慢性疼痛治療の際に、患者さんと治療目標について確認していますか?」と質問したところ、「治療目標を確認している」と回答した割合は61.2パーセント(63人)でした。一方、通院経験を有する5150人に同じ質問をしたところ、「治療目標を確認した」と回答した割合は34.3パーセント(1766人)、治療を中断した1576人では20.4パーセント(322人)という低い結果でした。

 

治療目標について、医師が「痛みの軽減」、次いで「日常生活動作」を挙げているのに対して、患者さんは「痛みの軽減」と「痛みの完治」を挙げていました。

 

医師は、慢性疼痛の治療の難しさをわかっていますので、痛みの軽減と日常生活動作の改善を治療目標にしますが、患者さんは完治までを望んでいるので、自分の思うような成果を実感できないと通院を中断してしまうようです。さらに、治してくれる医師を求めてドクターショッピングをする患者さんも多いということでした。

 

患者さんと医師の間では認識に温度差があり、コミュニケーション不足が浮き彫りにされた調査結果となりました。

「五十肩ですね。痛み止めと湿布を出しておきます」

患者さんにしてみれば、いままで通院していた医療機関で適切な治療が行われていないとしても、それを見極めるのは難しいことです。だからといって、どこへ行けば良いのかの判断もつかないのではないでしょうか。

 

そこで、以前から厚生労働省は盛んに「かかりつけ医」を持つことを国民に勧めています。かかりつけ医を持ち、日頃から診てもらってコミュニケーションを図ることで、患者さんの体質や生活習慣、生活環境などの背景も理解され、その人に合った治療法を選択できるようにするという取り組みです。

 

やはり大事な「かかりつけ医」の存在
やはり大事な「かかりつけ医」の存在

 

しかし、ケガや骨折、腰痛、膝痛などがなければ整形外科に行くことはありませんので、受診の頻度も低く、かかりつけ医を持つ人のほうが少ないわけです。

 

したがって、何か気になる症状が現れたときには、近所の整形外科クリニックを受診するようになると思います。その際、医師がどこまで診断し、医師の勘といいますか、「おかしい」と引っかかりを感じ、一つ上の検査を行ってくれるかどうかがポイントとなります。

 

それには、まず患者さんを観察し、また患者さんの話によく耳を傾けているかが一つの目安になるかと思います。

 

実は、患者さんが診察室に入ってきたところから診察は始まっています。部屋に入ってくるときの歩き方、立っているときや椅子に腰掛けたときの姿勢、話しているときのしぐさやクセ、カバンを手にしたときの動作など、患者さんの一つひとつの動きを医師は観察しています。

 

そして、肩が痛いと訴えた場合は、どのような動作をしたときに痛みが強く出るのかを確認しながら、患者さんの仕事や日常生活の様子を尋ねたりしています。例えば、引越しの仕事であれば重労働ですから肩への負担も大きいため、最初から腱板断裂も疑いながら治療を行っていきます。そのために、まずMRIを撮ります。

 

これが、もしも患者さんに何も尋ねず、肩が痛くて腕が上がらないという情報だけで、レントゲンを撮って異常がないから「五十肩ですね。痛み止めと湿布を出しておきます」で終わってしまったらどうなるでしょう。腱板断裂であったなら、治療を行っている間も断裂部が拡大してしまいます。

 

ですから、肩の治療には医師も知識と経験が必要だということです。

「肩の専門医」はどのように探すのか?

現在はどこの医療機関も電子カルテで管理していますので、目の前に患者さんがいるというのに、医師はパソコンの画面ばかりを見て、患者さんの顔をろくに見もしないで診療しているケースが見受けられます。これでは正しい診断が下せません。

 

つまり、患者さんをよく観察していること、話をよく聞いていること、目を見て話していることが、医師に求められる最小限の条件ではないかと思います。

 

それを患者さんは念頭において、満足のいく治療が行われていないと感じたときには、肩の専門医に診てもらうと良いでしょう。

 

専門医といっても、現在は整形外科の細分化された中で専門医制度を持っているのは脊椎だけで、肩の専門医がいるわけではありません。ただ、日本肩関節学会があり、この学会に所属している医師、特に代議員であれば、肩に関する学術的な知識を持ち、正確な診断と効果的な治療法、また最新の情報などを身につけています。

 

したがって、肩のスペシャリストといえると思いますので、日本肩関節学会の代議員名簿をホームページで確認して受診するのも一つの目安になるかと思います。

重要なのは「今後、いかに傷めないようにするか」

肩関節の疾患は、低年齢化しているだけではなく、高齢社会に突入した日本は2025年問題も抱えていますので、今後は高齢者の患者さんも増えることが予想されます。

 

2025年は、これまで国を支えてきた団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる年です。それ以降は2200万人、4人に1人が75歳以上という超高齢社会が到来し、医療、介護、福祉サービスへの需要が高まり、社会保障財政のバランスが崩れると指摘され問題になっています。そうなると四十肩・五十肩どころか、加齢による組織の変性で生じる腱板断裂の発症リスクも高まることは必至です。

 

これまでは、「もう年だから」と肩が動かないことを受け入れ、ADLやQOLが低下しても仕方のないことと諦めてしまう高齢者が多く見受けられました。そのため、足は動くのに歩かなくなって行動範囲も狭くなり、ロコモティブシンドロームを招いて要介護に至るなど健康寿命(健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間)にも大きく影響を与えていました。

 

しかし、見方を変えれば寿命が延びたことは、それだけ人生を楽しめる時間が増えたともいえます。実際に、60代、70代でも若々しくアクティブに活動している人が増え、テニスやゴルフ、登山などを楽しんでいます。

 

以前は考えられませんでしたが、現在は80歳でも肩の手術を受ける人が増えています。水泳を続けている70歳の患者さんは、マスターズで記録を出したいからクロールができるように手術を受けたいと申し出てきました。

 

そういう人たちのADLやQOLを維持する、あるいは向上させるためにも、肩を傷めてから治療するのではなく、いかに傷めないようにするかという予防がこれからは重要になってくると思われます。

 

そして、肩を傷めてしまった患者さんに対しては、正しい診断をして適切な治療を行うことが医師には求められてきます。患者さん側も、自分の抱えている疾患の正しい知識を持ち、必要な治療を早期に受けるという意識を持つことが必要です。それが、患者さん自身の体と心を守り、有意義な人生を送ることにつながります。

 

肩の疾患は命に関わるものではないため、多くの人に危機感がありません。しかし、肩が自由に動かせることで、皆さんは日常生活のさまざまな動作を可能にし、スポーツや趣味を楽しむなど活動がアクティブになり、やりたいことを実現して人生をより豊かなものにしていることを認識していただきたいと思います。

「下半身の強化」は、肩関節にも良い影響を与える

健康寿命の最大の敵は、自立度の低下や寝たきりになることです。その要因の第1位は「運動器の障害」です。腰痛や膝痛などが足腰を衰えさせ、寝たきりになるリスクを高めることは、誰でも予測できることです。

 

しかし、姿勢が肩関節の状態に大きな影響を与えていますので、上半身と下半身は相互に影響し合っています。したがって、下半身を強化することは姿勢の維持に不可欠で、当然のことながら肩関節にも良い影響を与えます。

 

そこで次回からは、体幹や下半身を鍛える基礎的な運動療法やストレッチも紹介しておきましょう。

麻生総合病院 スポーツ整形外科部長

肩治療のスペシャリスト。
医学博士。日本整形外科学会認定専門医。日本肩関節学会代議員。日本整形外科スポーツ医学会代議員。昭和大学藤が丘病院兼任講師。
専門分野はスポーツ整形外科、肩肘関節外科、関節鏡視下手術。
1990年昭和大学医学部卒業。
現在は、同病院で勤務医として活躍するだけでなく早稲田大学ラグビー蹴球部のチームドクターを務める。

著者紹介

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