資金繰りの危機から脱出の見込みは立つものの・・・
前回の続きです。特殊な事情を含む事業承継の局面で、専門家から「取得請求権付株式」の提案を受けた事例について見ていきましょう。
株式会社高崎工務店(T社)は、創業者の故・高崎一郎以来三代にわたって建設業を営んでおり、堅実経営を誇っていましたが、近年の不況によって受注が減少して、ここ数年は赤字体質に陥り、二代目経営者であった高崎健造の急死によって、創業者の孫である高崎健太(29歳)が経営を引き継いだ直後に、受注先から受け取って裏書をしてメインバンクに預けてあった1,000万円の手形が不渡りとなって、資金繰り上の大きな危機を迎えることとなってしまいました。
健太は、懸命の営業努力によって大手建設会社から5,000万円程度の下請の受注を取れそうな状況となり、これが成約すれば経営危機を免れることができる見込みが立つのですが、その売上の入金は数か月後となり、かつこの受注を取るためには、老朽化した一部の機械の修繕や設備の更新のために1,000万円程度の追加資金が必要であるということがわかりました。
ところが、創業以来付き合ってきたメインバンクは、T社が今期の決算で三期連続の赤字となる見込みで、今回の不渡手形の影響もあって、債務超過の状態に陥る可能性が極めて高いことから、追加融資を渋っており、困り果てた健太は、仕入先として創業以来の付き合いがある建設機材販売業の水原建材株式会社(M社)の水原隆弘社長に相談に行ったのです。
専門家は「取得請求権付株式の活用」を提案
M社の水原は、T社とは創業以来の古い付き合いで、健太を自分の息子のように思っていることもあって、何とか救済をしたいと考えました。
M社がT社に対して持っている2,000万円の売掛金(T社側から見れば買掛金)を免除することによって、T社の今期決算を黒字として債務超過を避け、かつM社からT社に対して1,000万円の貸付を無利息で行う方法を思い付きましたが、それではT社側に2,000万円の「債務免除益」が発生して今期赤字額との差額である1,000万円程度が課税の対象となり、かつ他社への無利息での貸付は、M社の税務上や、他の株主との関係上でも困難であることがわかり、専門家に相談したところ、取得請求権付株式の活用が提案されました。
具体的な解決策とその後の経過について、次回に続きます。