中小企業の資金調達として考えられる「3つの方法」
企業の「資金調達」には、大きく分ければ、企業が投資家から資金を直接受領する「直接金融」と、預金者の預金を金融機関を介して受領する「間接金融」があり、また直接金融の中にも社債を発行する方法と株式を発行する方法とがあって、合計3種類存在するとされています。
資金を受け入れる企業側にとって最も活用が容易なのは、金融機関からの借入ですが、返済期間が短く金利の支払も必要となり、かつ現行の金融実務では不動産を担保提供したり連帯保証人を取られたりするリスクがあります。
その意味から、借入同様に経理上は負債となるものの、一定期間は返済の必要がない社債の発行は、企業にとっては有利ではありますが、余程に信頼性の高い企業でなければ、納得して資金を拠出してくれる投資家を探すことは困難でしょう。
そして、企業にとって最も有難いのは、調達した資金が負債ではなく、返済の義務を負わない純資産、すなわち自己資本となる株式発行ですが、その場合は会社の株主が増えることとなるため、会社の支配権の確保が問題になる可能性があります(そのためにも種類株式を活用できるのですが)。
[図表]資金調達3種の方法
しかし、現実の中小企業を見てみると、資金調達方法のほぼすべてが金融機関を介した間接金融となっており、最近でこそ私募債と言われる社債による資金調達が稀に見られるようになったものの、株式発行による直接金融は、設立当初から株式公開を目標としている一部のベンチャー企業を除いては、ほとんど事例が存在しません。
その理由は明確で、株式市場において自由に株式の売買ができる上場企業とは違って、株式に流通性がなく閉鎖的な中小企業の場合には、投資家が投資した資金を確実に回収する方法が従来はなかったからです。
会社法が認める種類株式の中で最も画期的な株式!?
会社法は、我が国には従来存在しなかった様々な種類株式を初めて認めていますが、その中でも最も画期的なものが、「取得請求権付株式」であると言えるでしょう。
取得請求権付株式は、種類株式に関する制度を定めている会社法第108条第1項第5号では「当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。」と規定されており、これは要するに株主が会社に対して一方的に「株式を買ってくれ」と請求できる権利を持つ株式ということで、株主側に「プット・オプション」が付いている株式であると説明できます。
プット・オプションとは、「ある物をある日時にある価格で売る権利」を言います。
例えば、株主側から見た売渡条件を「株主は会社に対し、その所有する株式を時価で取得するよう請求することができる」としておけば、株主はいつでも会社に対して自分の持株を時価で売却することができ、会社側はこれを拒否できないということになり、かつ株主側は売却しないで時価が上がるのを待っていてもよいという、極めて強力な権利を持つことができるのです。
もうお気付きのことと思いますが、この取得請求権付株式を使えば、中小企業の株式であっても事実上は自由に売買することができるようになり、投資家による直接投資が可能となりますし、企業側も返済の義務を負わない安全な資金調達が可能となるのです。
しかし残念ながら、現時点ではまだ取得請求権付株式による直接投資が実際に行われている事例は数少ないと考えられています。
その理由は、一つは中小企業の多くがその経営内容や決算に関する情報を正確に公開してはおらず、投資家側が投資判断を付け難いことであると思われますが、それ以前の問題として、この取得請求権付株式という種類株式自体の存在や活用法がまだ我が国では知られていないということが大きいのではないでしょうか。
その意味から、現時点では会社に対して一定の信頼関係や特別な利害関係のある投資家が取得請求権付株式を活用するケースが有り得ると考えます。
次回は特殊な事情を含む事業承継の局面で取得請求権付株式を活用した事例を紹介します。