定員割れの状態に陥っている介護施設も珍しくない
こうした調査結果から、介護事業は飽和状態であることがうかがえます。実際、地域によっては介護施設が乱立しているために、定員割れの状態に陥っているところも珍しくありません。
一例を示すと、埼玉県では埼玉県議会の2015(平成27)年12月定例会で福永信之議員(当時)によって、以下のように同県の介護付有料老人ホームのほとんどが定員割れとなっている事実が明らかにされています。
「介護施設が足りないと叫ばれますが、介護付有料老人ホームはどうでしょうか。他の自治体からの流入なども勘案して整備が認められてきましたが、ほとんどが定員割れです。県内に施設を展開なさっている会社に調べていただきました。本県の27年3月現在の開設済みの定員は1万8095人、これに対して同時点の県内の介護保険適用による利用者数は1万3345人、約74パーセントです。」(埼玉県のWebサイトより)
介護事業者の数がまだまだ少なかった時代には、高齢者やその家族は施設を選ぶ余地がほとんどなかったかもしれません。
しかし、業者間の競争が激しくなるなかで、利用者の選択肢は着実に広がっています。つまりは、「地元に介護施設がいくつかあるが、どれがいちばん良いだろうか」などと見比べ、最も意に適うところを選べるようになっているわけです。そして、利用者に選んでもらえないような施設は経営が苦しくなり、最悪の場合、破綻へと追い込まれているのです。
◆人手不足を感じている介護事業者は7割近くに達している
介護事業者の倒産が増加しているもう一つの大きな理由としては、「深刻な人手不足」が挙げられます。目下、多くの介護施設が十分な介護スタッフを確保できない状況に陥っており、経営者の頭を悩ませています。
公益財団法人介護労働安定センターが令和元年に公表した「平成30年度 介護労働実態調査」によれば、介護サービスに従事する従業員の不足感を感じている事業者は7割近くに達していました。
同調査では不足している理由についてもアンケートが行われており、「採用が困難である」という回答が約9割を占めています。ちなみに、採用が困難な理由としては「同業他社との人材獲得競争が厳しい」「他産業に比べて、労働条件等が良くない」「景気が良いため、介護業界へ人材が集まらない」などの回答が多く寄せられています。
◆3K仕事で給料が安いイメージがあるために介護職には人が集まらない
人手不足は、現在、介護業界全体が直面している最大の問題であることは疑いありません。介護職員を確保できないために、施設の運営を続けることが難しくなっている事業者は確実に増えています。そこで、その実情や原因などをより掘り下げて見ていきましょう。