病気を未然に防ぐ「栄養学」と「食品機能学」に加え、老化についても最前線の研究成果を紹介する。知らず知らずのうちにストレスをため込んでいませんか。健康的な生活を送るために役立つ「食事の知恵」や「医学の意外な常識」を明らかにします。本連載は東海大学農学部バイオサイエンス学科の永井竜児教授の『間違いだらけの栄養学』(辰巳出版)から一部を抜粋し、読んで効く「読むくすり」をお届けします。

成人の4人に1人が糖尿病とその予備軍

現在、日本の死因の第1位は悪性新生物(がん)ですが、国立がん研究センターの2019年資料によりますと、がん患者はおよそ100万人います。これに対して、糖尿病患者は1000万人を超え、その予備群を含めると2050万人にのぼります(2106年、厚生労働省の国民健康・栄養調査)。

 

つまり、本当の死因の第1位は、がんではなく、糖尿病である可能性が大いに考えられます。

 

老化研究に興味を持っている僕を知っている人に、現在、糖尿病の研究をおこなっているというと、(研究分野の違いから)転職したの? と聞かれることがありますが、糖尿病は血管の老化を早めてしまうという面で、とても老化の研究ともリンクしているのです。

 

糖尿病には1型と2型があり、ウイルス感染や遺伝子的な由来から、すい臓の機能障害によってインスリンが分泌されずに発症してしまう人は1型糖尿病。本人に責任のない運が悪かった糖尿病ですが、全体の5%とわずかで、それ以外の2型糖尿病が95%を占めます。2型糖尿病を引き起こす要因は、おもに食べ過ぎ・運動不足など、生活習慣の不良による血糖値の上昇です。本来は、初期の段階で生活習慣を改善すれば治せる病気です。

 

ところで、日本は戦前から戦後間もないころには、糖尿病患者はほとんどいなかったことはご存じでしょうか。戦前・戦後は食糧難で日本人のカロリー摂取が少なかったことはもちろんですが、戦後は復興が進み、小麦の輸入が増え、食文化も西洋化によって、食肉からのタンパク質や油脂の摂取が増えました。

 

じつは、国民ひとりあたりの炭水化物摂取量は1960年代より現在のほうが圧倒的に少ないのです。それなのに、糖尿病が急増したのはなぜか。それは、日常の消費カロリーと摂取カロリーが影響しています。現在、低炭水化物ダイエットが流行(はや)っていますが、たんに炭水化物の摂取を減らせば健康になるというわけではありません。

 

糖尿病の増加にはいくつかの環境要因がありますが、ことに自動車の普及台数と糖尿病患者数はとても相関しており、モータリゼーションが進むと、買い物や通勤など日常の行動でクルマを使うことで運動不足が進行します。実際いま、糖尿病が増えてものすごく困っているのは、クルマ社会が急速に進んでいる中国です。また、都心はJRや東京メトロなど鉄道網の発達で、通勤・通学に伴う歩数は意外と多くなりますが、door to door の自動車通勤の比率が高い地方では、糖尿病の患者数は多くなっています。

 

そのような社会的背景から、いまや日本では、成人の4人に1人が糖尿病とその予備群になってしまいました。

次ページ3大合併症はすべて血管の老化がともなう
間違いだらけの栄養学

間違いだらけの栄養学

永井 竜児

辰巳出版

病気を未然に防ぐための栄養学と食品の機能に加え、老化についての最前線の研究成果をもとにしながら、日々の健康的な生活に役立つ食事の知恵や、栄養学と医学の意外な常識を明らかにする。 本書に書かれている健康づくりの…

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