日本の株式会社のうち99.8%は非上場会社。非上場株式にはマーケットがなく、たとえ優良企業の株式でも、なかなか売却することができません。非上場株式には「買い手が見つからない」「見つかっても買い叩かれる」だけでなく、相続税の問題もはらんでいます。ここでは、非上場株式の問題点と、売却して換金する方法を考察していきます。※本記事は、『少数株主のための非上場株式を高価売却する方法』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

特に売却が困難な非上場株式その1…「同族株式」

非上場株式のなかでも、特に売却が困難なものがあります。それが「同族株式」と「譲渡制限株式」です。

 

 1.同族株式 

 

ここでいう同族とは、親族(親戚関係にある人たち)のことを指します。相続税などに用いられる民法の「配偶者と6親等内の血族および3親等内の姻族」ということになっています。

 

 

血族とは血のつながっている人たちのほか、養子縁組による親子(法定血族)も含まれます。また姻族とは、結婚によってつながった人たちです。

 

同族会社の同族株主とは、一般的にこのような親戚関係者だけで持株比率50%超えを占めている株式のことです。詳細は後述しますが、株式会社にとって持株比率は大きな意味を持ちます。そのなかでも50%を超えるか否かが大きな境目となり、超えていれば株主総会において取締役の選任・解任や決算の承認などが可能になります。つまり、会社をほぼ牛耳ることができるのです。

 

そのため、創業者の多くは自分一人で50%超の株式を保有し、「会社は自分のモノ」という考えを抱きがちです。

 

また非上場会社の多くは、創業者個人で50%を超えることがなくても、同族でこの比率を維持することに固執します。このような会社がいわゆる“同族会社”です。

 

日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授によると、上場会社の中でファミリービジネスの割合は53%に上ります。したがって、非上場会社の場合はほとんどが同族会社といえます。

 

同族会社の株主は、ほとんどが親戚関係にあるので利害が一致し、ほかの株主が入ってくることを嫌がる傾向にあります。そのため同族同士以外の株式売買は、困難になることが多いのです。

 

あああ
売却が特に難しい、同族株式、譲渡制限株式

特に売却が困難な非上場株式その2…「譲渡制限株式」

 2.譲渡制限株式 

 

譲渡制限株式とは、売買をする際に取締役会または株主総会など、会社の承認が必要と定款で定められた株式のことです(会社法第2条17号)。

 

この株式には二種類あり、一つは発行するすべての株を譲渡制限するもの、もう一つは一部の株式の譲渡を制限するものです。

 

譲渡制限株式にするか否かは会社設立時に決めることができ、そのことは一部か否かも含めて会社の定款と登記簿謄本に記載することになっているので、あとから確認することができます。一般的には、すべての株式は譲渡制限付とされています。

 

すべての株式に譲渡制限株式を発行するメリットには、次のような事柄が挙げられます。

 

★取締役会の設置が不要になる

一部であっても譲渡制限のない株式を発行している会社は、取締役会の設置が義務付けられています。しかし、全株式が譲渡制限株式である場合にはその義務がありません(会社法327条)。

 

★監査役が不要になる

一部であっても譲渡制限のない株式を発行している会社は、取締役が3人以上必要であり、監査役または会計参与も1人以上必要です。一方で、全株式が譲渡制限株式である場合にはその必要がありません。

 

★取締役と監査役を株主に限定できる

全株式が譲渡制限株式である場合は、取締役や監査役などの役員は株主でなければならない、という制限を定款で定めることが可能です。

 

★役員の任期を延長することが可能になる

会社法によって取締役と会計参与の任期は基本的に2年、監査役は4年と定められています。しかし、全株式が譲渡制限株式である会社の場合は、定款によってそれぞれ10年まで延長することが可能です。

 

★大株主の考えで株主を決められる

譲渡制限株式は、売買をする際に取締役会または株主総会の承認が必要です。したがって、大株主(多くの場合、経営者)が承認した人に株式を集中させ、それ以外の人は株主にさせないということが可能になります。このことは、大株主が後継者を決める際などに有効に働きます。

 

★株主総会の手続きを簡便にできる

一部であっても譲渡制限のない株式を発行している会社が株主総会を開催する場合、原則としてその2週間前までに書面等で通知しなければなりません。ところが全株式が譲渡制限株式である会社は、1週間前、さらに条件によってはそれより短期間での通知でも認められることになっています。また、書面ではなく口頭での招集も条件により可能です(会社法299条)。

 

★会社の乗っ取りを防止できる

株式会社というものは、株式を50%超で保有していれば、取締役の選任・解任などの権利を得ることができます。つまり、株式を買い集めれば会社を乗っ取ってしまうことができます。それを阻止するために、株式の譲渡制限が有効なのです。すなわち、知らない間に見知らぬ株主が登場したり、会社運営に支障をきたす恐れのある株主の登場を阻止できるのです。

 

以上のように譲渡制限株式の効果は複数ありますが、そのほとんどが経営者=大株主の自由奔放な会社運営を許す温床となっています。

 

そして譲渡制限株式を設定する最大の目的は、会社の乗っ取りを含めた「第三者が株主となって会社経営への口出しを防ぐこと」です。要するに日本の非上場会社は法律によって頑丈に守られているのです。

 

譲渡制限株式を発行する会社、特に同族会社は第三者が株主になることを極端に嫌がります。それはたった1株であっても同様です。なぜなら、たった1株でも株主になればある程度の権利が与えられますし、さらには持株比率(発行済株式総数に対する割合)が高くなればなるほどその権利は大きくなっていくからです。

日本の非上場会社のほとんどが「譲渡制限株式会社」

持株比率による主な権利(株式には議決権のない種類もあるため、持株比率と議決権は同じではありません)については、記事の末尾に「【資料①】持株比率と得られる権利」「【資料②】該当する会社法条文の要約」をご用意しました。それらを精読するとわかるように、1株でも保有していれば取締役会議事録の閲覧を請求できるのと、株主代表訴訟もでき、持株比率3%以上であれば会計帳簿を閲覧できます。まして50%超なら取締役の選任・解任など会社経営をほとんど意のままにできてしまいます。

 

そのため、譲渡制限株式を発行する会社の取締役会または株主総会は、よほどのことがない限り見ず知らずの第三者への株式譲渡を認めません。そして、日本の非上場会社のほとんどが譲渡制限株式会社です。このことが、非上場株式の売却を阻害する最大の壁となっています。

 

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少数株主のための非上場株式を高価売却する方法

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喜多 洲山

幻冬舎メディアコンサルティング

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