「孤高」なはずの日本人、平均寿命が世界2位…なぜ?
当記事の冒頭で紹介したように、日本男性は世界一の孤独な状況にあります。ところが、日本男性の平均寿命は世界第2位の81.1歳(第1位はスイスで81.2歳)で、英国男性は79.7歳で第16位、米国男性は76.0歳の第37位と、日本男性は長寿であることが分ります。(WHO、2018年)。
もちろん、寿命や健康に及ぼす重要な要因には、生活習慣に加えて、個人を取り囲む社会環境や生まれ持った本人の資質があります。しかし、日本独特の風土や個人の精神文化に注目してみると、別の側面が浮かびあがってきます。
前述したように、日本には「孤高」を美化する精神文化があります。孤独がストレスとなっていても、不規則な生活から飲み過ぎ、喫煙、運動不足、肥満などに陥ることもなく、そのストレスを少なからず改善させるほどに、日々の独り身の生活を前向きにとらえ、平穏な心身の状態で行動できている人が多くいるのではないでしょうか。もしくは、栄養バランスの良い日本食があり、身体を適度に動かし、身の回りを小ぎれいに整理整頓する日本人の生活文化があるからでしょうか。そうした大勢の「孤高」的な孤独者が、生活習慣病の要因からかけ離れて生活していても不思議ではなさそうです。
さらに「真面目に自分と向き合う」ことは「コツコツと努力する」ことでもあります。こうした性格が、実は最も長生きできる可能性のあることがわかったのです。2011年に米国で発表された、性格と寿命についての80年にわたる男女1.5千人余りの追跡調査研究で明らかにされました(フリードマンHS、マーティンLR、『長寿と性格 なぜ、あの人は長生きなのか』清流出版2012年)。
研究者二代にわたる稀有な追跡調査研究から、陽気、明るい、冒険好き、社交的な人などではなく、真面目で、自己コントロールができ、慎重で、努力する人が、男女ともに最も長寿だと判明しました。真面目に自分と向き合う、修行者のような日本人の性格が、人生を長く生き抜く要因になり得たのです。
なおこの追跡調査では、男性であれ、女性であれ、生涯独身でいるより夫婦でいることがより長寿であること、妻と死別した夫の方が夫と死別した妻より死亡リスクが高まることを結論付けています。さらに、同じ男性でも家事・育児をしない昔ながらの男性より、家事・育児をする男性の方が、より長生きできることも報告されました。
ただし、孤独には健康障害を発生させるストレスが常に存在していることだけは忘れてはいけません。孤独に生きる人には、確かに長生きできる多くの長所がありますが、唯一、「孤独」の定義として人付き合いのないこと、すなわち家族・親族、地域社会、職場内やスポーツ・娯楽・趣味の集まりなど、生身の人間との関わりが乏しいことは、長寿を損なうひとつの要素となります。また、自分の現状を客観視できず、独善的になり得ます。
夫婦で長生きするためには、お互いのためにも配偶者以外に話し相手がいないようなことは避けなければなりません。世界一孤独な日本男性だからこそ、今一度自分と真面目に向き合い、自己コントロールしながら、コツコツと日々努力を重ねてください。
隣近所や職場の内外で新たな人付き合いを模索し、社会から孤立しないよう心がけてみてください。スポーツ・娯楽・趣味の集まり、町内会・自治会、ボランティア、NPO(特定非営利活動法人)や市民活動などの様々な活動にも関心を持つことが大切です。こうしたなんらかの活動組織への参加が、あなたの孤独にこれまでにない幸せの風を運んでくれるはずです。
【ポイント】
孤独は悪しき生活習慣と同等以上の健康被害を招きますが、米国の長期追跡調査研究から、真面目に自分と向き合う性格が長寿になり得る要因であることが明らかになりました。だからこそ、世界一孤独な日本男性が長生きできている可能性があります。
しかし、自己鍛錬の「孤高」の精神を持ち合わせているとはいえ、孤独は美化すべきではありません。
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