医師のアルバイトに潜む罠
――そんな中で、不動産投資の存在をどのようにして知ったんですか?
たまたま本を見つけて知りました。読んでみると、「私にもやれそうかな?」と思って、不動産投資会社に連絡したんです。それがきっかけですね。
――どうして、投資に興味をもったのですか?
まずは先行きの不安というものがありました。開業医は何の保障もありませんから。父が倒れたのを機に、私自身もいつ働けなくなるかもわかりませんし、近い将来のことを考えなきゃいけないと思いまして。
私は以前、国立大学病院に勤めていましたが、薄給だったこともあって、アルバイトをする必要がありました。これは私だけではなく、勤務医の実情なんです。
――いわゆる勤務医以外のフリーランス活動ですね。
そうです。ある個人医院に「院長」として、週1回勤務することになりました。その医院はまったく患者さんが来ないような個人医院で、いまから考えるとおかしいことだらけだったんですけど、当時はまったくその「おかしさ」に気づかなかったんです。
――そこで、何があったんですか?
私の知らない所で、高額な機器のリースなどが自分名義で契約されていました。つまり騙されていたんですね。「おかしいな」と思ったのは、私の自宅にカード会社からの督促状が届くようになったときです。そして、新しくクレジットカードをつくろうとすると金融機関の方から「つくることができません」といわれ、事が発覚したんです。そのころ、私がもともと持っていたカードの更新がことごとくできなくなるという件も重なって、「大変なことが起こっているな」と気づいたんです。
おまけに給与も未払いで一年間タダ働きをした挙句、職員から集団訴訟を起こされるという事態になってしまいました。
――まさに踏んだり蹴ったりですね。
そうです。悪い連鎖が重なりました。そのうえで父の病気のこと、阿久津病院を継承して医院経営をすることなどが重なり、思い悩むことが多かったですね。
でも振り返ってみると、私自身、世間のことに対して無知だったんです。勤務医として働いてお給料をいただき、おまけに週一回アルバイトを許される職業なんて、世の中にありませんから。そのような恵まれた環境の中で私自身、感覚が麻痺していたんです。おまけに契約にも無頓着で相手を信用してしまった結果、このような事態を招いてしまいました。いま思えば、いい社会勉強になったと思っています。
――そこでの気づきはありましたか?
病院経営のことを理解する必要がある、と思いました。当たり前のことなんですけど。つい現場のこと、医師として患者さんと向き合うことばかり考えてしまうところがあるんです。「医療バカ」とでもいうんですかね。でも、いまは医療バカの医師では生きてはいけません。もっと広い視野をもって医療を捉えなくてはいけないと思います。診療報酬も改訂する度に経営は苦しくなっていますから、医師はサービス業であると考えないと、地域で支持される医院にはなっていきませんよね。
――そもそも不動産投資するつもりだったんですか?
はい。しかし、状況が悪かったので、そもそも不動産投資できるのかもわかりませんでした。ですから、医師としてのメリットを最大限に生かした投資というわけではありません。ただし、それなりに預貯金があり、信用力があったので、実現できました。そういう意味ではサラリーマンの方に近い不動産投資ですね。投資物件は、都内の新築区分マンションです。