前回は、多額の現金を不動産に換えることで、大幅な節税に成功した開業医の事例を紹介しました。今回は、相続税対策に力を入れてきた、個人開業医のケースを見ていきます。

節税対策に力を入れすぎて承継対策が甘かったBさん

今回紹介するのは、節税に関心が高く、以前から相続税対策に力を入れてきた個人開業医のBさんのケースです。

 

Bさん64歳[個人開業・皮膚科]

 

●家族構成・・・Bさん(院長)、妻、長男(会社員・34歳)、次男(学生・27歳)、長女(勤務医・31歳)

●相続財産・・・合計3億円(相続税評価額)

●内訳・・・自宅の土地、建物、クリニックの土地、建物、医療機器等、賃貸マンション一棟、現預金

 

64歳となったBさんは、かねてより65歳での引退を考えていました。そのため、相続税などの資産税に詳しい税理士に事前に相談していました。財産の棚卸しや相続税の試算を行い、現金の割合が比較的多かったので、その税理士の助言に従って賃貸マンションを購入し、キャッシュリッチを避けています。

 

現金が減ったことで相続税評価額が下がり、さらに賃貸マンションも後継ぎの長女に贈与する計画を立てていて、税金面での準備は着々と進んでいる状態でした。

 

引退を翌年に迎えた正月、家族が集まるいい機会だと思ったBさんは、来年の誕生日を過ぎたら院長を勇退するつもりであることや、自分の考える相続のビジョンなどを話しました。

 

すると、Bさんの予想に反して、家族の一部からブーイングが起こりました。自宅は同居をしている長男に譲り、賃貸不動産を次男に渡し、クリニックは東京の大学病院に勤めている長女に継がせるつもりだったのですが、長女は「私は都内で開業したいから、お父さんの病院は継げない」と言いだしたのです。

 

その時に初めてBさんは承継についての考えが甘かったと気づきました。長女は学生時代の頃には継いでもいいと言っていたのですが、都内の大学病院で働いているうちに、いつの間にか考えが変わっていたようでした。

 

Bさんは有能な税理士に的確な節税のアドバイスを受けてはいたのですが、税理士が〝承継〟まで視野に入れたアドバイスができなかったために、このような事態になってしまいました。

 

もちろんBさん自身が節税だけに気を取られて、それ以外のアドバイスを積極的に求めようとしていなかった点も問題でした。いずれにしても、Bさんはこのままでは病院の存続危機だと焦り始めたのでした。

家族全員が納得するように何度でも話し合う

Bさんの相続対策のポイントは以下です。

 

①クリニックの承継

 

対策1:長女とのクリニック承継についての話し合い

対策2:長女が継がない場合、クリニック売却の検討

 

Bさんには長女と承継問題について、お互いの気持ちや将来の計画について腹を割った話し合いをしてもらいました。

 

何度も話し合いを重ねた結果、やはり長女がBさんのクリニックを継ぐことは難しいという結論に。当初はクリニックの存続に強いこだわりを見せていたBさんでしたが、時間をかけて考えるうち、「自分も引退したいし、長女も継ぎたくないなら、頑なに考えず、いっそのこと売却したほうが、お互いのためにいいのでは」と自然に気持ちが変わっていきました。

 

そこで、Bさんのクリニックを都内の医療法人に売却することにしました。今はM&A先を慎重に検討している段階です。クリニックの売却が済んだあかつきには、その代金を長女の開業資金にするという流れで話が進んでいます。

 

Bさんの場合は、節税対策にはある程度目処は立っていますし、今回のM&Aでクリニックの承継にも決着がつきましたから、円満な相続の実現はほぼ間違いないでしょう。

本連載は、2014年11月29日刊行の書籍『開業医の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

開業医の相続対策

開業医の相続対策

藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

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