うつを認知症と誤診…自宅で「見分ける方法」がある
久米男さんのように奥さんを亡くしてうつになる人のことを見聞きすると、41年間連れ添った愛妻への鎮魂記を書いてベストセラーとなった『妻と私』(文藝春秋)の著者である江藤淳さんのことを思い出します。江藤さんは家事がほとんどできないこともあって久米男さんのようになり、奥さんの一周忌を迎えることなく自ら命を絶ちました。
がんや糖尿病など深刻な病気は、すぐに治療する人がほとんどですが、うつも放っておくとこれらの病気に匹敵するくらい怖い病気なのです。
久米男さんのように認知症を疑われて病院に行ったところ、うつが判明することもよくあります。うつと認知症は症状が似ているところもあるため、なかには認知症と診断されてしまう人もいます。これでは、いつまで経ってもうつがよくなることはありません。
うつも認知症も物忘れの症状が出ますから仕方がないところもあるのですが、見分ける方法はあります。認知症は睡眠時間が長くなる傾向がありますが、うつは夜中や明け方に目が覚める中途覚醒が多いからです。
2025年には5人に1人がなるといわれている認知症。老人性うつは全国で140万~150万人と推定され、多くの患者が適切な治療を十分に受けていないともいわれています。65歳以上の高齢者の人口は3588万人で前年と比べて32万人増加し、過去最多です。これからさらに高齢化が進み、人生100年時代に入りましたので、認知症も老人性うつも増加の一途をたどるでしょう。
私はうつを薬で治すのに反対です。病院で処方された薬を飲むにしても、人と会ったり、散歩できるようになったりしたら、飲むのをやめたほうがいいでしょう。心の病気は心で治すしかないからです。
幸い久米男さんの場合、近所に親しい友だちがいます。娘さんとも連携して様子を見ることができます。うつが治ったら、無理のない範囲で勤めていた会社でアルバイトをさせてもらうのもいいでしょう。そのほうが喪失感から脱出でき、生活に張りが出て認知症やうつ防止につながるかもしれないからです。気さくで人付き合いがよかった久米男さんなので、薬に頼るよりもいいでしょう。
<50代から「定年後の自分」を育てるヒント>
●定年直後は喪失感に襲われやすい。認知症と間違えやすい老人性うつを理解しておく。
●最近、うつ病の薬が効かなくなったとされる。うつは心のあり方の病であり、自分の考え方や感じ方を変えるしかない。定年後もできる限り張りのある生活を送るようにする。