一念発起し転職するも、閑職に左遷…「負け組」を痛感
【事例1】
中堅電気メーカーの総務部で課長代理を務める竜也(50歳)は、3年前に同じ規模の電気メーカーから転職した。転職した会社のほうが将来性を感じたというのが表立った理由だが、部下の管理や部門間の調整、根回しが主な仕事で、自分のスキルアップにつながらない仕事ばかりするのが不安というのが本音だった。また、同じ時期に大学時代の友だちが転職に成功したのに触発されたのも大きかった。幸いにも竜也のスキルは評価され、若干ではあるが収入もアップした。
ところが、竜也の仕事は前の会社とたいして変わらず、上司から嫌われたため閑職に追いやられた。同じ時期に転職した友だちは出世していたため、自分が負け組に転落したことを痛感し、出社拒否寸前にまで精神的に追い詰められていた。
年収、人間関係…「現状改善のための転職」は失策
自分の人生を考えたとき、「本当にこのままでいいのか?」と考え込んでしまうことは、だれにでもあるでしょう。数年先がまったく見えなかったり、職場に満足していなかったりするのならなおさらです。竜也さんのように明確なビジョンが描けない人が、将来の不安から転職することはめずらしくはありません。
それに拍車をかけるように、政府は2019年の成長戦略実行計画のなかに人口減や高齢化を見据え、70歳までの就業機会確保など、多様な就労形態を許容する雇用改革を盛り込みました。そのため定年してからも10年先、人によっては15年先まで働き方を見据える必要が出てきました。
定年後に満足のいく再就職先を見つけるためにも、40代後半より上の人でも、チャンスがあれば転職を考える人も結構いるかと思います。出世レースから脱落した人は、転職に活路を見出すこともありますし、逆に出世したからこそ、会社の嫌な面が見えてしまって転職したくなる気持ちもわかります。それでも私は、中高年は転職しないほうがいいと思っています。転職してうまくいく人はほとんどいないからです。
40代後半での転職はスキルと経験が重視されるのはいうまでもありません。勢いに任せた転職や、スキルや経験もないのに転職できたとしても、確実に給与待遇は下がるでしょう。この点において竜也さんはわずかながら年収がアップしているので優秀です。上司からの評価が低く閑職に追いやられたのは嫉妬からでしょう。このように優秀な人でもなにが起こるかわからないところがあるのが転職です。