転職先で新たなストレスが加わる可能性にも留意
ただ、年収が下がったから転職に失敗ということではありません。実際、年収が下がっても、やりたい仕事を求める人は少なくありません。それなのに年収が上がる転職だけを追い求めて失敗してしまう人は結構います。30代、40代の転職とも違いますし、年収が上がるぶん責任も上がるので、ストレスに押しつぶされてしまいそうになる人も多いのです。50過ぎからの転職ならなおさらです。
転職すれば、いまの悩みは解決するといった極端な考えになっている人もいますが、どんな会社にもなんらかの問題はあるもので、転職先がいまの悩みを解決してくれるわけではありません。かなり高い確率で、すぐまた転職したくなるでしょう。
私の知人は51歳で年収1200万円ですが、会社の人間関係が悪いためうつ状態になってしまい、「年収が10分の1になってもいいから、会社を辞めて気楽なアルバイト暮らしがしたい」と言っています。これは極端な例ですが、会社の人間関係も働く意欲を大きく左右するのは間違いありません。
専門家を中心に人材紹介を行うMS-Japanが、2019年に「50代の“ホンネの転職理由”」という調査結果を発表しましたが、1位は「人間関係」でした。この結果に納得する人は多いのではないでしょうか。
ただ、人間関係の問題については、転職先でもかなりの確率で起こる可能性があります。どんな会社でも、必ず合わない人が存在するといってもいいのではないでしょうか。ならば転職はうまくいかないと思って生きるほうがラクです。
定年後を明るく過ごす近道は「負け意識からの脱却」
竜也さんの場合、転職に失敗し、閑職に追いやられたためうつ状態になっていますが、定年まで10年もあります。考え方を変えれば、いまの悔しさをバネにして、定年後の再就職探しに向けて準備する時間が十分にあります。これは不幸中の幸いといってもいいでしょう。転職に失敗したことで悩んでいても仕方がありません。
まず負け意識は捨て、うつ状態から脱出すべきです。「うつは心の風邪」と言われますが、私は現代社会において、うつは風邪どころではなく、がんや糖尿病に匹敵すると思っています。
2017年に厚生労働省が発表した「患者調査」によると、うつ病・躁うつ病の総患者数は40代が26.9万人で一番多く、続いて50代で23.9万人、60代で21.3万人となっています。つまり、中高年のうつは多いのです。
また、うつになると認知症にもなりやすいことがわかっています。うつを防ぐには、休日はなるべく明るいところに出たり、よく身体を動かしたりすることが大切です。
すでに説明したとおり、私はうつに薬は効かないと思っています。まず竜也さんは人と比較して自分を否定することの恐ろしさに気づくべきです。そして、自己肯定感を取り戻して高めてください。これが苦しみから抜け出す一番の近道です。この方法については、すでに説明したとおりですが、自己肯定感を取り戻すことができれば、人の言葉に傷つくことはなくなり、振り回されなくなります。
定年後の再就職先に向けての準備ですが、現在の自分のスキルを冷静に見つめ直し、どのような能力や経験が不足しているのかを見極め、補う努力をすればいいでしょう。ただ、これから求められるスキルはなにかという視点で考えなければなりません。
また、会社以外でのつながりを考えるのも大切です。趣味や地域のボランティアの集まりでもかまいません。興味がある集まりに参加してみるといいでしょう。
私の知人に地域のボランティアに参加し、仕事では得られないような感謝をされることへのよろこびを知り、視野が広がった人がいます。定年まで10年もあるわけですから仕事だけでなく、焦らずいろいろとチャレンジするのを楽しむようにすればいいでしょう。
<50代から「定年後の自分」を育てるヒント>
●50歳を過ぎてから、いまの悩みを解決したり、年収を上げるためだけの転職はしないほうがいい。転職ですべてが解決するというのは大間違い。
●会社の人間関係も働く意欲を大きく左右する。なんらかの問題があったとしても、いまの会社の人間関係がいいのであれば、天職だと思うべき。
●50歳を過ぎたら、定年後の再就職の準備期間と考えたほうが現実的。社内より社外につながりを求め視野を広げるとともに、これから求められるスキルはなにかを見極め、自分の経験が定年後の再就職でどのように活かせるかを考えておく。