近年、家族同様にペットを大切にする人が増えています。しかし高齢者世帯では、自分にもしものことがあった場合、残されたペットの面倒を誰が見るのか、という問題も生じます。今回は、飼い主が亡くなったあともペットを守る信託について見ていきます。

ペットのいる家庭は、子どものいる家庭よりも多い

ある統計によると、現在日本で飼育されている犬・猫の頭数は2000万頭を超えるとのことです。15歳未満の人口が約1600万人なので、今の日本では、子どものいる家庭よりもペットのいる家庭の方が多いことになります。

 

特に高齢者のみの世帯が増えた現代社会においては、ペットの存在が大きな癒しとなっています。海外では、犬の散歩が高齢者の心身に好影響を及ぼすなどの効果により、ペット飼育によって医療費が抑制されたとの調査結果も報告されました。

 

もはや「ペットは家族」という考え方は当たり前となっており、その分、自分に万が一のことがあったときのペットの行く末を心配する高齢者の方も多いのではないでしょうか。

遺言だけではペットの生活は守りきれない

自分が死んだ後、残されたペットの面倒をみてもらうための方法として、まず、遺言が考えられます。この場合は、ペットの世話をしてもらうことを条件に、飼育費としての財産を譲るという内容で遺言を残します。法律的には「負担付き遺贈」と呼ばれる形です。

 

財産を受け取った人間が、実際に遺言書の内容のとおりペットの面倒をみるように、遺言執行者というチェック役を遺言で指定しておくことが通常です。

 

ただし、負担付き遺贈は、遺言者側の一方的な意思表示によるものですので、受け取る側はこれを拒否することができます。また、遺言は死んだ場合のことはカバーできても、認知症など意思能力不十分となった場合のことはカバーできません。ペットの世話を確実にやってもらうという意味では、不安の残る方法です。

信託なら横領や虐待のリスクも減らせて安心

そこで近年注目を浴びているのが、信託を活用する方法です。たとえばこんなケースを考えてみます。

 

70歳になるA子さんは、ご主人に先立たれた後、犬のタローと一緒に暮らしています。子どものいないA子さんにとって、タローは唯一の家族と呼べる存在です。これまでタローとたくさんの楽しい思い出を作ってきました。タローのおかげで、同じ犬好きの友達にも恵まれました。

 

ただ、身寄りのいないA子さんにとって、自分がもし急死してしまった場合、事故などに遭って意識不明となってしまった場合に、自分の代わりにタローの面倒を見てくれる人はいません。

 

A子さんの妹であるB子さんは、A子さんの気持ちは理解してくれているものの、ご主人が動物嫌いのためタローを引き取ることはできません。犬好き仲間のC美さんはタローを引き取ってあげてもよいと言ってくれていますが、親族ではないC美さんが、もしものことがあったときに心変わりしない保証はありませんし、そもそもA子さんにもしものことがあったことすら知ることができない可能性もあります。

 

この場合、信託を使うと次のような仕組みを作ることができます。

 

受託者をB子さん、受益者をC美さんとする停止条件付き信託契約を締結し、もしものことがあった場合にはタローの飼育費に当たる金銭がB子さんに託されるようにします。これとは別に、もしものときにはタローの飼育権がC美さんに移転する契約を結び、タローの飼育費として、信託された金銭が定期的にB子さんからC美さんに支払われる形をつくります。また、契約どおりに金銭が使われているか、ペットの面倒が見られているかをチェックする第三者として、信託監督人を置くこともできます。

 

金銭を管理する人と飼育する人を別々にすることで、横領や虐待の可能性を減らせますし、全体を管理する専門家をつけることで、より飼い主の思いを実現しやすくなります。

 

民事信託には、こんなちょっと変わった活用法もあるのです。

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