今回は基本に立ち返り、改めて「信託とは何か」について整理したうえで、いわゆる「民事信託」にできることを説明していきます。

民事信託への道が開けたのは平成18年の法改正から

今回は基本に立ち返って信託とは何かについて整理したうえで、本連載のタイトルにもなっている、いわゆる「民事信託」について改めてご説明しましょう。

 

「信託」とは、信頼できる誰か(受託者)に財産を移転し、受託者が目的に沿った管理・処分を行う制度です。信託の主たるプレイヤーは、次の3者です。

 

「委託者」 信託財産のもともとの所有者で、信託を設定する者。

「受託者」 委託者から信頼され財産の管理・処分等を託された者。

「受益者」 信託財産から生じる利益を受ける者。

 

信託の最大の特徴は、財産の所有権を受託者に移転することにより、所有権の帰属と利益の帰属を分離できるところにあります。

 

受託者が、営利を目的に、業として信託を受ける場合の信託は、「商事信託」と呼ばれています。「信託」という言葉を聞くと信託銀行を思い浮かべる方も多いかと思いますが、信託銀行が絡む信託はこの商事信託に該当します。

 

これに対して、受託者が、営利目的や業としてでなく信託を引き受ける場合の信託が「民事信託」と呼ばれるもので、さらに、民事信託の中でも委託者の親族などの親しい者を受託者にする形は「家族信託」と呼ばれることがあります。

 

かつて信託といえば、「商事信託」が主流でした。これは、信託を規定する法律である「信託法」が、厳格な規制・取締目的の法規であったためです。厳格な受託者義務を果たすことができるのは、実質的に信託銀行や信託会社などのいわゆる「プロ」の受託者に限られていました。

 

しかし、平成18年の信託法改正により転機が訪れます。受託者の義務が一定度まで任意法規化・合理化されたことにより、プロではない一般市民が受託者となる「民事信託」の道が開けたのです。

信託監督人・受益者代理人を置けば悪用も防げる

一般市民が受託者となる民事信託において大きな問題となりうるのが、「受託者が不正を働かないか」という点です。前回の連載では、受託者の業務の適正化を図るために、一般社団法人を受託者とするという方法をご紹介しましたが、それ以外の方法として、「信託監督人」や「受益者代理人」として専門家を選任する、というものがあります。

 

受益者は、受託者に対して一定の監督是正権を持っています。しかし、受益者が意思無能力のであったり、まだ幼い子供であるようなケースを考えると、その監督是正も期待できません。

 

このように受託者が一般人の場合には、受託者を監督する立場である「信託監督人」や「受益者代理人」に、専門的な知見を持つ第三者を置くことが有効です。弁護士、司法書士、税理士などの専門家が一般的ですが、こうした専門家には、専門分野の知見からの監督機能のほかにも、「家族信託」に起こりがちな家族間の感情論を冷静に諌める役割も期待できるのです。

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