新型コロナウイルス感染症が上場会社の開示実務に与える影響

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2020/4/10号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

 

※本ニューズレターは2020年4月3日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

 

※2020年4月15日、本ニューズレターのアップデートが公開されました。

※2020年4月23日、本ニューズレターのアップデート②が公開されました。

1. はじめに

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、上場会社においては、新型コロナウイルス感染症による事業活動への影響に関する開示が必要となったり、開示書類の準備に通常より時間を要する等、金融商品取引法(昭和23年法第25号。その後の改正も含み、以下「金商法」といいます)及び株式会社東京証券取引所(以下「東証」といいます)の規則上の開示実務にも影響が及ぶ可能性があります。そこで、新型コロナウイルス感染症の拡大に関連した、金商法及び東証の規則上の開示の留意点について概説します。

 

新型コロナウイルス感染症が上場会社の開示実務に与える影響
新型コロナウイルス感染症が上場会社の開示実務に与える影響とは?

2. 適時開示・継続開示の提出時期に関する取扱い

(1)決算発表及び業績予想の開示に関する東証での取扱い

 

通期及び四半期の決算短信の開示は、それぞれ決算の内容が定まったら直ちに(遅くとも各決算期末後45日以内に)行うことが原則とされています※1。また、業績予想の開示に関しては、通期又は四半期の決算内容の開示に際して行われることが実務慣行として広く定着しています※2。この点、東証は、新型コロナウイルス感染症の拡大が上場会社の事業活動にも少なからず影響が及ぶ可能性があることに鑑み、新型コロナウイルス感染症の影響に関する決算発表の時期等に関する取扱いを含む適時開示実務上の取扱いを整理した上で、2020年2月10日付で「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」を公表(以下「本取扱い」といいます)しています※3

 

具体的には、新型コロナウイルス感染症の影響により、決算手続き等に遅延が生じ速やかに決算内容等を確定することが困難となった場合には、上記のような決算短信の開示期限にとらわれず、確定次第開示することで差し支えないとされています。但し、①新型コロナウイルス感染症の影響により、大幅に決算内容等の確定時期が遅れることが見込まれる場合には、その旨(及び確定時期の見込みがある場合には、その時期)の適時開示を検討することが求められている点、及び②下記(2)の有価証券報告書又は四半期報告書の提出期限の延長申請を行うことを決定した場合には、その旨の適時開示が必要となる点に留意が必要です※4

 

業績予想の開示に関しても、新型コロナウイルス感染症が事業活動及び経営成績に与える影響により、決算内容の開示に際して業績予想の合理的な見積もりが困難となった場合や、開示済みの業績予想の前提条件に大きな変動が生じた場合等には、その旨を明らかにして業績予想を「未定」とする内容の開示を行った上で、その後に合理的な見積もりが可能となった時点でアップデートを行うことが許容されています。

 

※1 通期の決算短信の開示については、決算期末後30日以内の開示がより望ましく、遅くとも45日以内に内容のとりまとめを行い、その開示を行うことが適当であり、決算期末後50日を超えることとなった場合には、決算の内容の開示後遅滞なく、その理由及び翌事業年度以降における決算の内容の開示時期に係る見込み又は計画を開示することとされています。四半期の決算短信の開示については、四半期報告書の法定提出期限が四半期決算期末後45日以内とされていることに鑑み、実質的には四半期決算期末後45日以内に提出を求められていると考えられます(東京証券取引所「会社情報適時開示ガイドブック」〔2018年8月版〕405頁)。

 

※2 東京証券取引所「業績予想開示に関する実務上の取扱いについて」(2013年3月21日)(https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/format/forecast/tvdivq0000004vt9-att/b7gje6000002f7t2.pdf)2頁、9頁。

 

※3 東京証券取引所「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」(2020年2月10日)(https://www.jpx.co.jp/news/1023/20200210-01.html)。また、東証は、上場会社向けナビゲーションシステムの中で、新型コロナウイルス感染症に係る適時開示実務に関するFAQをまとめており(https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/category2478.html)、実際に適時開示を行う際にはそちらも併せてご参照下さい。

 

※4 なお、通常は通期の決算発表が期末後50日を超えた場合には、決算発表後遅滞なく、その理由等について開示するよう求められていますが、新型コロナウィルス感染症が理由である場合には開示の必要がないとされています(東京証券取引所「2020年3月期本決算、2020年6月期第3四半期決算、2020年9月期第2四半期決算及び2020年12月期第1四半期決算の発表に関する予定連絡の集計結果及び留意事項について」東証上会第622号、〔2020年4月3日〕)。

 

(2)金商法上の開示に関する取扱い

 

上場会社が金商法に基づき提出する有価証券報告書及び内部統制報告書並びに四半期報告書(以下「有価証券報告書等」といいます)に関しては、提出期限がそれぞれ事業年度経過後3ヵ月以内、四半期会計期間経過後45日以内と定められています(金商法24条第1項、24条の4の7第1項)。また、臨時報告書に関しては、提出事由が生じた場合には「遅滞なく」提出することが定められています(同法24条の5第4項)。この点、金融庁は、新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえ、一定の金商法上の開示書類の提出期限について延長等を認める旨を2020年2月10日付で公表しました※5

 

具体的には、新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により有価証券報告書等を期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認※6により各書類の提出期限の延長が認められています※7

 

また、臨時報告書に関しては、新型コロナウイルス感染症の影響により臨時報告書の作成自体を行うことができない場合には、かかる事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、「遅滞なく」提出したものとして取扱われることになります。

 

※5 金融庁「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」(2020年2月10日)(https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200210.html)

 

※6 金商法24条第1項柱書・企業内容等の開示に関する内閣府令15条の2の定める提出期限の承認の手続に従うことが必要になるものと思われます。

 

※7 上記(1)のとおり、上場会社が、有価証券報告書又は四半期報告書の提出期限の延長申請を行うことを決定した場合には、その旨の適時開示が必要となることには注意が必要です(東京証券取引所「有価証券上場規程」402条第1号akの2、東京証券取引所「会社情報適時開示ガイドブック」〔2018年8月版〕307頁)。また、延長申請が承認を受けた場合又は受けられなかった場合にも、その内容を適時開示することが必要とされており(東京証券取引所「有価証券上場規程」402条第2号uの2、東京証券取引所「会社情報適時開示ガイドブック」〔2018年8月版〕396頁)、延長申請が承認された場合には、提出期限延長に係る承認通知書の写しを、受領後遅滞なくTargetを通じて東京証券取引所へ提出することが必要となります(東京証券取引所「有価証券上場規程施行規則」419条第4号)。

3. 新型コロナウイルス感染症の影響に関する開示

(1)適時開示

 

東証は、新型コロナウイルス感染症が上場会社各社の事業活動や経営成績に及ぼす影響が投資者の判断及び株式等の価格形成にも影響を与えることが見込まれることに鑑み、本取扱いにおいて、当該影響等についての開示が可能となった時点で速やかにかつ積極的に開示することを上場会社に対して求めています※8。また、東証は、2020年3月18日付けで「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」を公表し、上場会社に対し、有価証券報告書等の提出に先立ち、決算短信や四半期決算短信の添付資料等で新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の開示を行うことを要請しております。さらに、同日公表された「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針の概要」によれば、これらに加え、業績予想の前提条件や修正時の理由等に関する記載を充実させることも要請しております※9

 

※8 ※3参照。

 

※9 東京証券取引所「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」(2020年3月18日)(https://www.jpx.co.jp/news/1023/20200318-01.html)、東京証券取引所「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針について」(2020年3月18日)(https://www.jpx.co.jp/news/1020/20200318-01.html)、東京証券取引所「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針の概要」(2020年3月18日)(https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000004mc80-att/nlsgeu000004mcaw.pdf)。また、東証は、上場会社向けナビゲーションシステムの中で、新型コロナウイルス感染症に係る適時開示実務に関するFAQをまとめており(https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/category2478.html)、実際に適時開示を行う際にはそちらも併せてご参照下さい。

 

(2)金商法上の開示

 

金商法上の開示の関係では、有価証券報告書の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」といった項目で新型コロナウイルス感染症が上場会社各社の事業活動や経営成績に及ぼす影響やこれに対する対応方針を記載し、又は四半期報告書において当該項目をアップデートすることが考えられます。

 

これらの項目のうち、特に「事業等のリスク」においては、経営者が経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、経営成績等への影響や対応策を記載することとされており※10、上場会社において新型コロナウイルス感染症が経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると判断した場合には、これに従った記載をすることが必要となります。新型コロナウイルス感染症の終息の目途が立たず状況が不透明な中で具体的にどの程度の記載をするかについては悩ましいところではありますが、既に提出されている有価証券報告書の事業等のリスクの実例を小職らにおいて調査したところ、2020年3月31日時点において、新型コロナウイルス感染症の影響等について言及している実例が相当数見受けられました。記載内容や程度は提出会社によりさまざまですが、傾向としては、①一般論としての記載にとどまるもの、②自然災害リスクの一内容として記載しているもの、③今後生じうる具体的なリスクまで記載しているもの※11、④現に発生した休業等の具体的な影響について記載をしているもの、⑤社内の対策に関して記載しているもの、⑥業績への影響の予測は困難である旨記載しているもの等が存在しており、今後上場会社が事業等のリスクの記載方法を検討する上で参考になるものと思われます。

 

※10 企業内容等の開示に関する内閣府令3号様式記載上の注意(11)、2号様式記載上の注意(31)a

 

※11 具体的には、工場の生産・操業停止、物流の停滞、商談機会の減少、従業員が出勤困難になることによるサービスレベルの低下、観光イベント業における集客数の減少等が挙げられます。

4. おわりに

以上は2020年4月3日時点の情報に基づいて記載しておりますが、新型コロナウイルス感染症の拡大が更に続く場合には、東証や金融庁から追加のアナウンスがされる可能性もありますので、当局の動向を注視しつつ適切な対応を行っていくことが重要と思われます※12

 

※12 当局の取り組みに係る網羅的な情報については、金融庁「新型コロナウイルス感染症関連情報」(https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/press.html)、東京証券取引所「新型コロナウィルス感染症に関するJPXの取り組み」(https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/0020/20200302-01.html)等をご参照下さい。また、東証は、開示上の取り扱いに加えて、債務超過に係る上場廃止基準等について新型コロナウィル感染症に配慮した特例の導入について、2020年3月31日付で有価証券上場規程等の一部改正を公表し、パブリックコメントに付している点についてもご留意下さい(東京証券取引所「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた上場制度上の対応に係る有価証券上場規程等の一部改正ついて」〔https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/20200331.html〕)。

 

 

濃川 耕平

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

杉本 健太郎

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

髙木 拓実

西村あさひ法律事務所 弁護士

 

 

アップデート情報

2020年4月15日 新型コロナウイルス感染症が上場会社の開示実務に与える影響について(アップデート)

2020年4月23日 新型コロナウイルス感染症が上場会社の開示実務に与える影響について(アップデート②)

 

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2000年、東京大学法学部第一類(LL.B.)卒業。2007年、University of Virginia School of Law(LL.M.)卒業。2001年、第一東京弁護士会登録。2007年~2008年、Norton Rose法律事務所(ロンドン)に勤務。

【主な著書等】『企業労働法実務相談』(共著、商事法務、2019年3月)、『M&A法大全(上)(下)[全訂版]』(共著、商事法務、2019年1月)、『社債ハンドブック』(共編著、商事法務、2018年7月10日)、『新株予約権ハンドブック[第4版]』(共編著、商事法務、2018年3月)、『資金調達ハンドブック〔第2版〕』(共編著、商事法務、2017年12月)、『種類株式ハンドブック』(共著、商事法務、2017年9月)、『ファイナンス法大全(上)[全訂版]』(共著、商事法務、2017年8月)、『REITのすべて〔第2版〕』(共著、民事法研究会、2016年12月)、『会社法実務相談』(共著、商事法務、2016年11月)、『資本・業務提携の実務(第2版)』(共著、中央経済社、2016年9月16日)、『新株予約権ハンドブック[第3版]』(共編著、商事法務、2015年6月)、『資本・業務提携の実務』(共著、中央経済社、2014年12月20日)、『論点体系 金融商品取引法[1]・[2]』(共著、第一法規、2014年7月10日)、『新株予約権ハンドブック[第2版]』(共著、商事法務、2012年6月25日)

著者紹介

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士
ニューヨーク州弁護士

1996年、早稲田大学法学部(LL.B.)卒業。2006年、Georgetown University Law Center(LL.M.)卒業。2000年、第一東京弁護士会登録。2007年、ニューヨーク州弁護士登録。2006年~2007年、Simpson Thacher & Bartlett LLP(ニューヨーク)に勤務。

【主な著書等】『社債ハンドブック』(共著、商事法務、2018年7月10日)、『ファイナンス法大全(上)[全訂版]』(共著、商事法務、2017年8月)、『新会社法のすべてQ&A』(共著、中央経済社、2005年8月)、『ストックオプション拡充と改正法による新株発行実務』(共著、中央経済社、2002年02月)

著者紹介

西村あさひ法律事務所 弁護士

2017年、一橋大学法学部(LL.B.)卒業。2018年、一橋大学法科大学院中退。2019年、第一東京弁護士会登録。

著者紹介

連載西村あさひ法律事務所 ニューズレター

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○執筆者プロフィールページ
   濃川 耕平
   杉本 健太郎
   髙木 拓実

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