年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、遺産分割協議のあとに起きたトラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

無理して買った「都内一戸建て」

東京に住むAさん。会社員として現役で働いていたころ、思いきって新築の戸建てを購入しました。

 

「わたしは家を建てて初めて一人前、という世代の人間なんですよ。だから、いつかは自分の家を持つことが夢でした。いまの家は、少々無理をして買ったので、正直、ローンの返済は厳しかったですね」と笑うAさん。

 

家は都内でも人気の街にあり、やっとローンの返済が終わったのは、定年退職を迎えるころ。

 

「わたしの会社員人生は、この家のローンを払うためだけにあったようなものですね」

 

そんなAさんの家族は、妻と長男、次男の4人家族。ローンの返済に加え、子どもたちの教育費が家計に重くのしかかった時期もありました。それでもAさんは、自分のお小遣いを減らしてでも、子どもの教育にはお金をかけました。

 

「やはり学歴はないよりはあったほうが良いに決まっています。さすがに、次男から『海外に留学したい』と聞かされたときにはどうしようか迷いましたが……。未来への投資だと思って、アメリカに行かせましたよ」

 

長男は日本でも有数の大学を卒業し、人気の企業に就職。そこで出会った女性と職場結婚し、二人の子どもにも恵まれました。一方、次男は高校を卒業後、米国に留学。大学は卒業しましたが、定職にはついていないそうです。

 

「何をしているか、よくわからないですが……自分で稼いで生きているらしいので、特にこちらから言うことはありませんよ」とAさん。父の心配をよそに、次男は自由に生きていました。

 

そんなAさんでしたが、70歳を前に病を倒れ、帰らぬ人になってしまいました。

「父の遺産はすべて母に」と家族で決めたが……

「働いていたころは、自分たちは我慢だけしてきたから、定年退職したら、色々なことをしよう。海外にもいっぱい行こうと言っていたんですけどね。結局行ったのは、ハワイに1回だけでした」とAさんの妻は、残念そうに話します。

 

Aさんが遺してくれたのは、都内でも人気の街にある自宅と、預貯金が2,000万円ほど。遺言書はなく、どのように分割するか、Aさんの妻と子どもたちで話をしました。すると長男が「すべて母さんが相続すればいいんじゃない?」と言いました。

 

「あの家も、建てて40年くらいだろ。このまま母さんが住むにしても、リフォームするなりしないと、難しいだろう。預貯金は、そのお金にあてたらいいじゃない」

 

この提案に、次男も「いいアイデアだね。これなら父さんも安心だ」と同意。結局、Aさんの遺産のすべてをAさんの妻が相続することになりました。

 

しかし、Aさんの相続はこれで終わりではなかったのです。それは相続税の申告期限が迫る、ある日のこと。海外に暮らす次男から、長男に連絡が入りました。

 

長男「珍しいな、電話をしてくるなんて」

 

次男「実は、父さんの相続のことで話があるんだ」

 

長男「ん!? 父さんの相続って、遺産は全部母さんが相続することで話は終わっているだろう」

 

次男「状況が変わったんだ。自分の取り分は、現金でもらいたい」

 

長男「はぁ? なんだそれ、いまさら遅いよ!」

 

次男「いや、まだ間に合うだろう。現金が必要なんだ」

 

長男「理由を言えよ! 話はそれからだ」

 

次男「とりあえず、自分の取り分は、現金でもらいたいんだ!」

 

長男と次男の話は平行線のまま。とりあえず相続税の申告を行い、支払いを済ませたそうです。

 

なぜ次男があのようなことを言ったのか。「はっきりとはわからないのですが、友達と事業をはじめて大きな借金を作ったらしいんですよ。自由に生きてきたうえ、まだ親に頼ろうなんて、虫が良すぎる」と長男。遺産分割の話し合いは振り出しに戻り、いまも決着はついていないそうです。

 

相続割合を民法で定めた「法定相続分」

事例では、自分の取り分、という主張がされました。そもそも遺産の分け方は非常にシンプルで、遺言書があればその通りに遺産を分けます。遺言書がない場合には法定相続人全員での話し合いによって遺産の分け方を決めていくことになります。

 

そして配偶者は必ず法定相続人になります。配偶者以外の法定相続人には優先順位があり、第1順位の法定相続人は子どもです。子供がいない場合には、第2順位の直系尊属である父母に進みます。そして子ども父母もいない場合には、第3順位の兄弟姉妹に進みます。

 

遺産の取り分は相続人が全員納得すれば自由に決めることができますが、民法上、ひとつの分け方の目安(=法定相続分)が存在します。

 

配偶者と第1順位相続人である子どもがいる場合は、1/2ずつ分けます。子どもが複数人いる場合は、1/2をその人数で等分していきます。第2順位相続人の場合には、配偶者が2/3、直系尊属が1/3となります。第3順位相続人の場合には、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4となります。

 

さらに知っておきたいのが「遺留分」です。遺留分は「残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は相続できる権利」のことで、法定相続分の半分が権利として認められています。

 

以上のことを前提に、事例を振り返ると、次男の法定相続分は遺産の1/4となります。そして遺留分として1/8を主張できることになります。

 

今回、「遺産のすべてを(Aさんの)妻に」という遺言書を残していたとしても、次男は「遺留分として、遺産の1/8をよこせ!」と主張できることになります。遺言書の作成は相続トラブルを避けるうえでも重要ですが、知らずに遺留分を侵害していることも多くあります。争いを防ぐために遺言書を作っても、トラブルの火種になることも珍しくありません。遺言書を作る際には、プロの監修のもとでつくることをおすすめします。

 

【動画/筆者が「遺留分」について分かりやすく解説】

 

橘慶太
円満相続税理士法人

 

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