心臓・血管の病気…実は「がんに似ている」?
あなたは心臓や血管の病気と聞くと、どういうものを想像されるでしょうか? あるとき「うっ」と急に胸が苦しくなったり、急激な頭痛に襲われたりして倒れてしまい、それっきり。そんなイメージの方が大半なのではないでしょうか。いわゆる「突然死」です。
しかし現代では、心臓・血管の病気によって突然死するケースは多くありません。もちろん、残念なことに突然死する方もゼロではありませんが、そういう方は医療の進歩によってどんどん減っています。だからこそ、未曽有の超高齢化社会が訪れているのです。
現代における心臓・血管の病気の正しいイメージは、徐々に悪化していく「慢性病(その名の通り長く続く病気のこと)」です。その点では、がんにとてもよく似ています。ところが不思議なことに、がんと心血管疾患のイメージはまったく違います。どういうわけか、心血管疾患だけに突然死のイメージがついてしまっているのです。
まずは、心血管疾患=突然死、というイメージを捨てることからはじめましょう。心血管疾患は、ご自身で管理し、付き合っていくべき慢性病なのです。
ただし、心血管疾患とがんとの間には、大きな違いもひとつあります。それは、心血管疾患は観察しやすく、予防も治療も比較的簡単だということです。心血管疾患を正しく理解すれば、正しく恐れ、正しく予防することができます。
【まとめ】
・心血管疾患=突然死のイメージは間違い
・心血管疾患は徐々に進む「慢性病」
「心臓病」は理解が難しく、情報発信もあまりされない
心血管疾患についての誤ったイメージが広まっているのは、心血管疾患が複雑であることがひとつの理由だと考えています。
心臓はひとつの臓器ですが、心臓病には、医師でも覚えきれないくらいの、ものすごくたくさんの種類があります。症状や、病気が起こるメカニズムもさまざまです。他の臓器に比べて、心臓はとてもややこしい臓器なのです。
もちろん、われわれ心臓を専門とする医師は理解していますが、一般の人に同じように理解してもらうのはとても難しいでしょう。医師は患者さんに分かりやすく説明したつもりでも、あまり正確ではない心臓病の知識が広まってしまったのかもしれません。その結果、漠然と「心臓病=突然死」という、まったく実態とかけ離れたイメージが広まってしまいました。
正しいイメージが広まらないもうひとつの理由に、患者さんが病気についての情報をあまり発信しない風潮が挙げられるかもしれません。これはがんとはかなり対照的です。
書店に行くとがんの闘病記がたくさん並んでいますし、テレビでもがんに関する番組を多く放映しています。残念ながら、「がんが治る」と称する怪しげな民間療法も多いようです。ところが、がんと同じくらい日本人にとって近しい病気である心血管疾患については、なぜか患者さんがあまり情報を発信しないのです。
たとえば「不整脈」という言葉は誰でも聞いたことがあると思いますが、一般人向けの不整脈に関する本は、私が書いたものを除くとかなり少ないのが現状です(医師向けの本は多くあります)。
患者さんが口を閉ざす理由も、おそらく心血管疾患の理解が難しいからではないでしょうか。
がんについては、「悪いものができ、徐々に大きくなる」というイメージが定着していますし、大まかには間違っていません。ですから、そのイメージに基づき「がんとこのように闘おう・受け止めよう」といったメッセージを、患者さんや医師、ご家族などが共有できます。
しかし残念なことに、心血管疾患については、日本社会に正しいイメージが存在していないように思うのです。そこで私はこの連載で、心血管疾患の正しいイメージをできるだけわかりやすく伝えようと思います。かみ砕いて伝える以上、医学的な正確さはある程度犠牲にしなければいけません。
しかし、医師に求められる正確さと患者さんや患者さん予備軍に求められる正確さの水準が異なるのは当然です。読者の皆さんに、必要にして十分な心血管疾患のイメージを伝えていきます。
【まとめ】
・医学的には、心血管疾患はとても複雑で難解
・そのせいで、誤ったイメージが一般人に広まってしまった
山下 武志
心臓血管研究所・所長