医師は患者の症状から「疾患」を推測しますが、症状と疾患は、必ずしもセットであるとは限りません。今回は、テレビにも数多く出演し、日本不整脈心電学会理事でもある医師の山下武志氏の著書、『日本一わかりやすい心臓と血液の基礎知識 心臓・血管の病気にならない本』(KKベストセラーズ)より一部を抜粋し、「心血管疾患」の意外な症状について解説します。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

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心血管疾患は、「症状」からは見つけにくい

心血管疾患について解説をする前に知っておいて頂きたいことがひとつあります。「症状」と「疾患」(または病気)の違いです。この2つをしっかり区別することは、心血管疾患では特に大切だからです。

 

症状と疾患は別のものです。

 

症状とは、自覚できる体の異変のことを指します。たとえば「熱がある」とか「お腹が痛い」という感覚は症状です。

 

一方の疾患とは、現実に体に起こっている異変のことを指します。インフルエンザや盲腸炎は疾患です。

 

多くの疾患は症状を伴います。インフルエンザになると熱が出たり頭痛がしたりしますが、これらは症状です。私たち医師は患者さんの症状(発熱、頭痛……)から疾患(インフルエンザ、風邪……)を推測するわけです。

 

しかし問題なのは、症状と疾患が常にセットであるとは限らない点です。

 

症状と疾患は、常にセットであるわけではない
症状と疾患は、常にセットであるとは限らない

 

症状がなくても疾患がある場合がありますし、逆に症状があっても疾患がない場合もあります。また、症状から疾患を推測しにくい場合もあります。

 

そして心血管疾患が難しいのは、症状と疾患のつながりが弱い点です。

 

[図表1]症状と疾患の関係
[図表1]症状と疾患の関係

 

どういうことでしょうか?

 

たとえば病院には、毎日のように「胸に違和感があったりドキドキする。心臓の病気に違いない。突然死するのではないか?」と訴える方が来られます。違和感やドキドキはご本人が感じる症状であり、症状自体は事実なのでしょう。そして、そのような症状から心臓の疾患を推測して病院にいらしたわけです。

 

ところが、そういう方から実際に心血管の病気、つまり疾患が見つかるケースは半分もありません。心血管疾患の知識がないばかりに「胸がおかしい→心臓病」と思い込んでしまうのですが、その多くは心配要りません。心血管疾患では、症状=疾患という図式は成り立たないからです。

 

心血管疾患の場合に問題なのは、症状から疾患を推測することが極めて難しい点にあります。心臓の専門医でも、患者さんが訴える症状だけから心臓の病気を発見することはほぼ不可能であるくらいです。

 

さらには、恐ろしいことに、まったく自覚症状がなくても心血管疾患が潜んでいる場合も少なくないのです。

 

【まとめ】

 

・症状は自覚できる体の異変、疾患は実際に存在する体の異変のこと

・胸に鼓動や違和感などの症状を感じても、実際に疾患があるケースは半分以下

・心血管疾患は症状から疾患を見つけることが極めて難しい

注意すべきは「心臓病らしくない」症状

ここで簡単なクイズを出します。次に挙げる症状のうち、心血管疾患の可能性が高いのはどれでしょうか?

 

1.胸の違和感(痛みや鼓動を感じる、など)

2.脈が抜ける

3.息切れ

4.めまい・気が遠くなる

5.体がだるい

 

多くの方は1を選ぶと思います。書いたように、このような症状で来院する人はとても多くいます。また、2を選ぶ人も多いでしょう。逆に、3以降はあまり心臓病とは関係がなさそうです。特に4や5の症状は、そもそも心臓とは無関係だと考える人が多いのではないでしょうか。

 

では、答えを発表します。

 

答えは、「後ろの方の症状ほど重い心血管疾患の恐れが大きい」です。1より2、2より3、3より4の症状の方が危険なのです。

 

意外でしょうが、心血管疾患の場合「心血管疾患とは関係がなさそうな症状ほど危険」という傾向があります。

 

[図表2]関係がなさそうな症状ほど危ない
[図表2]関係がなさそうな症状ほど危ない

 

それぞれを具体的に解説しましょう。

まず多くの人が心臓の心配をする胸の症状ですが、意外なことに、心血管疾患とのつながりは強くありません。

 

特に「胸がおかしい」という訴えしか症状が無い方に心血管の病気が見つかることは非常にまれです。胸には心臓以外にもたくさんの臓器がありますから、そちらの異常であるケースもありますし、単にそれまで意識しなかった鼓動を感じるようになり、不安になっただけの人も少なくありません。

 

「脈が飛ぶ・抜ける」などと脈の異常を訴える人も多いのですが、その多くは「期外収縮」という、年齢を重ねれば誰にでも起こる心配の要らない症状です。多くの方は鼓動や期外収縮に気づかずに毎日を過ごしているのですが、何かのきっかけで気づいてしまい、不安になって病院に行くケースが多いようです。

 

もちろん私は医師ですから、胸に異常を感じたら念のために病院に行くことをお勧めしますが、問題が見つかる可能性はあまり高くないでしょう。

 

【まとめ】

 

・胸の違和感しか症状がない人から心血管疾患が見つかるケースは多くない

・心血管疾患とは関係がなさそうな症状ほど危険

 

「病気を疑わない症状」にこそ心血管疾患が潜んでいる

このように、いかにも「心臓病かもしれない」と思わせる症状の大半が問題ないのですが、逆に、一般の方々が心血管疾患を疑わない症状にこそ病気が潜んでいるのが怖いところです。

 

たとえば、先ほど三番目に挙げた息切れの症状。もし最近、息切れを感じるようになっている方は注意してください。

 

実は、息切れの背後に心血管疾患がある可能性は小さくないのです。肺か心臓に問題があるケースがあります。

 

しかし、息切れを自覚しても「心臓に問題があるかもしれない」と考える方は少数派ではないでしょうか。「歳のせいかな?」などと考えてしまう方が大半でしょう。

 

このように、症状から病気に気づきづらいのが心血管疾患の難しいところです。

 

四番目の「めまい・気が遠くなる」は息切れ以上に心臓とは関係がなさそうですが、その認識は間違っています。もしめまいを感じて耳鼻科系や脳神経外科で問題が見つからなければ、次には心臓のチェックをしなければいけません。想像しづらいとは思いますが、めまいの原因が心臓にあるケースは少なくありません。

 

五番目の「だるさ」に至っては、心臓と関係があると考える人はさらに少なくなると思いますが、大いに関係があるのです。なぜなら、心臓の機能が低下すると、全身の血流が減少して体中に悪影響を及ぼすからです。

 

【まとめ】

 

息切れやめまい、だるさなどの背後に心血管疾患が潜むことがある

 

 

山下 武志

心臓血管研究所・所長

 

 

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