「運動能力の低下」はどんな心疾患でも起こる症状
心血管疾患を疑う方に注意して頂きたい、もっとも代表的な症状は、「走れなくなる」とか「階段を上がれなくなった」といった、すなわち運動能力の低下です。いつも上がれていた駅の階段が、急に辛く感じられるようになったら要注意です。
運動能力の低下は、どんな心血管疾患でも確実に現れる症状です。もし命に係わるような心血管疾患があれば、間違いなく、走ったり階段を上がったりすることが苦しくなるはずです。
逆に言うと、たまに一瞬、脈が抜けるくらいの症状があったとしても、問題なく走れるケースがあります。それはつまり、差し迫った問題はないということです。
本記事でご紹介する症状の原因が「心臓」にある場合、数時間単位で急激に悪化することがあります。すぐに病院に行ってください。
ここまでのまとめ
●心血管に重大な病気がある場合、ほぼ確実に運動能力が低下する
●走ったり階段を上がったりといった普段はできている運動ができなくなる
心臓病のもっとも危険な症状は「失神」
心血管疾患におけるもっとも恐ろしい症状は、意外かもしれませんが、失神です。これは死に直結しかねない、一番危険な症状です。
なぜ失神がそんなに危険なのでしょうか?
それは、気を失うということが「心臓が止まり、脳への血流が途絶えたこと」を意味するためです。一命をとりとめたとしても、次に心臓が止まったらそのままかもしれません。
失神という症状と心臓を結びつける方は少ないでしょう。ほとんどの方は脳の問題を疑い、脳神経外科に行きます。もちろん脳に問題があって失神することもあるのですが、心臓に原因がある場合も多いことは知っておいてください。
ただし、失神の大半が問題がないものであることも事実です。失神によって病院に来る方は少なくないのですが、過半数のケースは命に差し支えない、一過性の血圧低下による失神です。
血管と関係することなので簡単に解説しましょう。小中学校の朝礼の時間に女の子が失神したり、通勤時の駅で過労のサラリーマンが倒れたりすることがありますが、このような失神は、生理による体調不良や、過労によって血圧の調整機能が乱れたことで一時的に血圧が下がり、脳への血流が減ったことによる失神です。
医者の不養生と言われてしまいそうですが、私もこのタイプの失神を経験したことがあります。何日も徹夜をして論文の翻訳を終え電車に乗ったところ、気分が悪くなってそのまま倒れてしまったのです。
このような低血圧による失神はそれほど珍しくなく、心配も要らないのですが、怖いのは中に心臓が止まっているケースも含まれていることです。
したがって、失神を経験したら必ず循環器内科にかかってください。
【まとめ】
・心臓が不意に止まることで起こる失神がもっとも危険な症状
・大半の失神は危険ではないが、中には心臓が原因の失神が混ざっている
「大したことがなさそうな失神」ほど危険
注意して頂きたいのは、危険な失神ほど前兆がなく、意識を取り戻した後もけろっとしている点です。つまり、大したことがないと感じてしまうような失神ほど危険なのです。
私が経験したような血圧低下による失神は、原因が体調不良のため、前兆があります。私も倒れる瞬間まで「気分が悪い。これは倒れるかもしれない……」と考えていた記憶があります。
しかし心臓に原因がある失神は、突然起こるのが特徴です。つまり、ある瞬間にぴたっと心臓が止まるのです。そして運よく再び心臓が動き出した場合は、けろっとしています。心臓はずっと不調であることは少なく、時間帯によって大きく調子が変わるためです。
本人にとってはあまり怖い感じがしないため「あれはなんだったんだろう」と思いながら、病院に行かない方もいるかもしれません。しかし、それは極めて危険です。心臓はもう一度止まるかもしれませんし、その後、再び心臓が動き出す保証はありません。
必ず病院に行くことは前提ですが、このような場合も、日ごろから脈拍と血圧を測っていればある程度危険かどうかの予想はつきます。心臓が原因の失神なら、その前後の脈拍と血圧に以前とは異なる変化が現れることが多いからです。
【ここまでのまとめ】
・心臓に原因がある危険な失神ほど予兆がなく、意識が戻ってもけろっとしている
・体調不良が原因の危険ではない失神は予兆があり、危険な感じがする
「靴下の痕」や「鈍く広い胸痛」には要注意
二番目に危険な症状は「靴下の痕」です。足首に靴下の痕が残っていたら、心臓が危険な状態かもしれません。
靴下の痕がいつもよりくっきり残るのは、脚がむくんでいるためです。
なぜ脚がむくむのでしょうか? それは、尿を作っている腎臓の機能が低下し、水分を十分に排出できなくなっているためです。そして、腎臓の機能低下の原因が心臓にある場合は少なくありません。心臓が不調になる「慢性心不全」によって腎臓に十分な血流が行かず、腎臓の機能が低下するのです。
心不全という言葉はよく聞くと思いますが、ひとことでいえば「心臓が不調になり、十分な血液を送り出せていない状態」になることです。
一般的な心不全のイメージは、ある日突然「うっ」と胸が苦しくなる……というものだと思いますが、これは「急性心不全」です。心不全には急性のものとは別に徐々に悪化する慢性心不全があり、むくみを引き起こすのは慢性心不全の方です。ただし、慢性心不全になれば必ずむくみの症状が現れるとは限らないので注意してください。
もちろん、心臓に問題がなくても腎臓の機能が低下して脚がむくむことはあります。
しかし、慢性心不全の患者さんには息切れなどむくみ以外の症状も現れますから、区別は可能です。息が切れるようになったり階段が上がれなくなるなど運動能力の低下と同時にむくみが見られるようになったら、直ちに循環器内科に行ってください。
慢性心不全によるむくみは、1週間から1カ月程度と心血管疾患にしては比較的長いスパンで悪化することが特徴です。数週間にわたってむくみ、息切れなど運動能力の低下、体内の水分量が増えたことによる体重増加などの症状が見られたら、必ず循環器内科に行きましょう。
また、やはり、心不全になると脈拍にも変化が見られます。心臓が、血液を押し出す力が落ちたことを脈拍を増やしてカバーしようとするため、脈拍が増加するのです。
【ここまでのまとめ】
●慢性心不全になると体がむくむことがある
●慢性心不全の場合、むくみ以外に息切れや脈拍数増加などの症状も現れる
「部位を特定できない痛み」は、心筋梗塞の前触れかも
最後に知っておいて頂きたい「危険な症状」は、胸の痛みです。
胸の違和感や痛みの多くは心臓とは無関係ですが、ごく一部の痛みは心筋梗塞の前触れである恐れがあります。
特徴は、痛みの部位を特定できないことです。医師の間では「ここが痛い」とはっきり指し示すことができる痛みの多くは問題ないことが知られていますが、ある程度広い範囲が圧迫されるような、鈍い痛みには要注意です。患者さんによっては胃や肩が痛むと訴える方もいますし、歯に痛みが走ると言う方もいます。
心筋梗塞の前触れである痛みは、
・数分から10分程度続く
・痛みに波があり、しばらくすると良くなることも多い
ことが特徴です。
痛みは、心臓の太い血管(冠動脈)が、血栓によってふさがりかけているときに発生するのですが、詰まりかかった血管が再び流れはじめることも少なくありません。そんなときは痛みが消えたり、改善したりするのです。
また、痛みを感じはじめたころは、運動時や飲酒時など心拍数が上がる場面のみ、痛みを感じることが多いようです。しかし、徐々に痛みを感じる時間が増えていきます。
一時的に改善しても、いずれ完全にふさがるときがきます。それこそが心筋梗塞であり、命に係わってきます。このように、冠動脈が詰まったり細くなったりして、心臓の筋肉に十分な酸素や栄養が行き届かなくなる病気を「冠動脈疾患」と総称しますが、治療は可能なので、直ちに循環器内科に行ってください。
心筋梗塞の難しい点は、必ずしも脈拍や血圧に前兆が現れるとは限らないところです。心臓の血管がふさがっていないときは健康な人と変わりませんから、脈拍も血圧も正常なのです。
心筋梗塞は「朝と夕方」に多い⁉
心筋梗塞は発生する時間帯に偏りがあります。朝と夕方に多いのです。
朝に心筋梗塞が多いのは、朝は血圧が上がるため血管内のプラークが破れて血栓ができやすいからです。夕方に心筋梗塞が多い理由はわかっていません。季節にも偏りがあり、やはり血圧が高くなる冬が危険です。
さて、ここまで、心血管疾患で危険な4つの症状をご紹介してきました。運動能力の低下、失神、むくみ、広範囲の鈍い胸痛です。
心血管疾患は、必ずしも症状と疾患(病気)がセットなわけではありませんが、ここでご紹介した症状については、多くの場合、原因として「不整脈・慢性心不全・冠動脈疾患」が考えられます。そして、運動能力の低下はすべてに現れる症状です。
複雑なイメージがある心臓病ですが、皆さんが知っておくべき重大な病気は、大まかにはこれら3つだけなのです。症状と一緒に図にまとめたので、復習してください。
【ここまでのまとめ】
・胸の血管が詰まり心筋梗塞になりかけると痛みを感じる
・痛みは数分程度続き、波がある
・痛みの範囲を特定しづらい鈍い痛みが特徴