一般男性と僧、「同じカロリー」を摂取したら驚くべき違いが!

古代から現代まで、日本の食文化は多様に変化してきました。21世紀に生きる私たちにとって望ましい食生活とは一体なんでしょうか? 本記事では、内科医である奥田昌子氏の書籍『日本人の病気と食の歴史』(KKベストセラーズ)より一部を抜粋し、「昭和時代~現代の食生活の変化」に焦点を当て、解説していきます。

やはり健康体「僧」…昔から驚異的な寿命を誇っていた

◆日本人は何をどう食べたらよいのか

 

21世紀に生きる私たちにとって望ましい食生活を考えるにあたり、ヒントになるのが僧の食事です。こんにちでは、健康のためには動物性蛋白質や脂質が必要だというのが常識になっています。けれども、厳しい戒律を守って肉も魚も食べない僧が短命かというと、そんなことはないのです。

 

宗教家に広げて考えると、家康に食生活の助言をした天海僧正の107歳を筆頭に、鎌倉時代から室町時代にかけて伊勢神宮につかえた度会(わたらい)家行が96歳ないし106歳、親鸞90歳、とんち話で知られる一休87歳、鎌倉の極楽寺で人々の救済にあたった忍性が86歳など、長寿の例が多数見つかります。

 

昭和元(1925)年から昭和54(1979)年までの資料をもとに、職業別の平均寿命を計算した文献によると、もっとも平均寿命が長かったのが宗教家で75.6歳、以下、実業家、政治家と続きました。

 

これとは別に、寺の記録に残された住職149名の死亡年齢と、それぞれの時代の男性の平均寿命を比較した調査があります。

 

この研究では、75年以上生きた僧にしぼり、75歳時点での平均余命を比較しました。子どもの死亡率が平均寿命におよぼす影響を除外するためです。すると、僧は一般男性とくらべて余命が平均4.2年長いことがわかりました。

 

そして、平成22(2010)年には興味深い報告がありました。ある大寺院に協力してもらい、現代の僧の食生活を調べ、血液検査を行ったのです。この寺院は禅宗で、鎌倉時代の戒律そのままの暮らしを守り続けています。調査対象となったのは20代の僧で、同じ20 代の一般男性の集団とデータを比較しました。

 

平成時代ともなれば、この寺院でも炊飯器、ミキサー、オーブンなどの電化製品を使っています。ですが、食材はすべて植物性食品で、肉、魚、卵、牛乳などの動物性食品を口にすることは一切ありません。

 

その代わり、中世、近世の人々と同じくご飯をたくさん食べます。ご飯には17種類、お粥には20種類ものバリエーションがあり、朝はお粥、昼は白飯か麦ご飯です。おかずは食材や調理法がじつに多彩で、とくに目立つのがキノコと海藻をふんだんに使っていることでした。

 

正式な食事は鎌倉時代と同じく一日二食で、それとは別に、軽食として麺類やお餅を夕方以降に食べていました。一日二食から一日三食に移り変わる時代の食事が伝わっているのでしょう。このスタイルであれば、現代の若い僧にも受け入れられやすいと思われます。

 

昔から驚異的な寿命を誇っていた
昔から驚異的な寿命を誇っていた

同じカロリーでも僧の食事には「決定的な違い」が

◆禅僧の血液検査は異常なし

 

禅寺といっても、厳しい修行をする時期とそうでない時期ではカロリーの総摂取量が違い、修行の際はわずか1000~1200キロカロリーしか摂らないそうです。これはデスクワークにつく20代男性が一日に必要とするカロリーの約半分にすぎません。あえて極限状態に身を置くことで、精神修養に打ち込むのが目的と考えられます。

 

そんな僧らも、通常の時期は約2070キロカロリー摂取しており、同じ年代の一般男性の摂取量約2330キロカロリーとそれほど違いませんでした。

 

しかし、その内訳を見ると、僧の蛋白質摂取量は一般男性の65パーセント、脂質にいたってはわずか36パーセントと、圧倒的に少ないのです。その半面、炭水化物は一般男性より23パーセント多く摂取していました。

 

そんな生活をしていて健康を害することはないのでしょうか? 血液検査をしたところ、なんと、僧らには異常が認められませんでした。

 

印象的だったのは、蛋白質の摂取量が少ないにもかかわらず、血液には一般男性と同じだけ蛋白質が溶けていたことです。まだ研究が必要とはいえ、一般男性の3分の2しか蛋白質を摂らなくても、体が十分に機能する可能性があるようです。

 

カルシウムも同様で、牛乳を飲まなくても、僧らは一般男性とほぼ同じだけカルシウムを摂取できており、血液中のカルシウム濃度は完全に正常でした。牛乳の代わりに野菜、海藻、大豆などからしっかり摂っているからです。

 

実際のところ、カルシウムは牛乳に飛び抜けて多いわけではないのです。「文部科学省食品成分データベース」によると、食品100グラムに含まれるカルシウムの量は、牛乳が110ミリグラムなのに対して、あげ310ミリグラム、がんもどき270ミリグラム、厚揚げ240ミリグラム、木綿豆腐93ミリグラムとなっています。小松菜には150ミリグラム、春菊にも120ミリグラム含まれています。

 

また、僧は食べませんが、ししゃも3尾で198ミリグラム、干しエビはたった10グラムで710ミリグラムなど、和食にはカルシウムが豊富な食材がたくさんあります。

 

これに対して西洋料理は、料理全体に含まれるカルシウム量が多くありません。そのため西洋人は、食事とは別に、牛乳や、近年ではサプリメントでカルシウムを補うようになったといわれています。

 

そして僧らは食物繊維を一日に平均22.1グラム摂っていました。厚生労働省が定める20代男性の食物繊維の必要量20グラムを十分満たしています。これに対して、同世代の一般男性は平均11.5グラムしか摂取できていませんでした。

 

禅寺には食生活以外にも俗世と異なる戒律があります。生活は規則正しく、背筋を伸して座禅や読経を行い、呼吸を整え、心を穏やかに保つ修練を積んでいます。飲酒、喫煙が御法度なのも大きいでしょう。

 

しかし、食生活についていえば、禅寺で受け継がれている鎌倉時代の食事で、ここまで健康で過ごせるわけです。日本人が古代から追求してきた日本人のための健康食、和食の方向性は間違っていなかったということです。

 

 

奥田 昌子

医師

 

内科医、著述家

愛知県(尾張)出身。京都大学大学院医学研究科修了。京都大学博士(医学)。

博士課程にて基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関で20万人以上の診察にあたる。著書に『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』(講談社)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎)、『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』(青春出版社)などがある。

著者紹介

連載日本人の病気と食の歴史~長寿大国が歩んだ苦難の道

日本人の病気と食の歴史

日本人の病気と食の歴史

奥田 昌子

KKベストセラーズ

本書を読むだけで健康になる!長生きできる習慣と秘訣が身につく! 「日本人の体質」を科学的に説き、「正しい健康法」を提唱している奥田昌子医師。今もっとも注目される内科医にして著述家である。 本書では、日本人誕…

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